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「あいつは負けてないよ」
やや語気を強めながら、石川先輩は俺の目を見据える。
「サウナで倒れた他校の奴を外に連れ出して、救護班に引き継ぐまでやってしまった。ほんの数十秒に満たない時間の後、あいつはサウナに戻ったが既にカウントは頭から消え去っていた」
GTSという競技上、どうしてもこういったことは起こりうる。言うなれば熱さとの闘いである以上、ある程度仕方がない部分もある。
救護班の配備は公式戦では特にしっかり行われているが、サウナの中にいるわけではないため、サウナから倒れた選手を出すのは基本的には同席している人間の仕事だ。
だからこそ同じチームの選手がコンディション不良となった場合は、そのチームで介抱を行う暗黙のルールが存在している。
「そいつに同じ高校の奴はいなかったんですか?」
「いなかった。そいつが強いワンマンチームだったのかもな。しかし誰かが救護班へと引き継がなければならない。それをあいつは買って出た」
インターハイは、高校生最後の大舞台。そんな中で別の高校の人間が倒れても、気に掛けることが出来る人間が何人いるだろうか。
しかし、滝部長はやってのけた。
自分のチームメイトではないというのに、それをやってのけた。
誰かがやらなければいけない仕事。義務を買って出たのだ。
それはたしかに、負けてなんていない。
「だからお前らも無理はするなよ。カウントも大事だが、倒れるほど無理をする必要はないからな。あくまで練習試合の一環だし」
先輩として気を遣ったか、あるいはわざとか。石川先輩は黙ってカウントを続けていた一年生たちに話しかける。
「あざっす! ……あ」
元気よく石川先輩に返事をする奴がいたが、その後一瞬で後悔するような顔になった。
そう、そういうことなのだ。
サウナという環境で、ただ一心に数をカウントすることはままならない。
ちょっとしたことでカウントを乱してしまうものなのだ。
例えば、人から声を掛けられること。
もしくは、人の会話が耳に入ってしまうこと。
あるいは、人がサウナで倒れてしまうこと。
GTSとは、サウナとは。自分の意志でコントロールするのは難しいのだ。
「そういえばお前を見つけたのは滝と海城だったよ」
思い出したかのように、石川先輩が続けた。
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