めちゃくちゃ好きな文章でした

だからこそ最初に心地よい読後感を疑いました。それで異性愛で友人の死の苦しみを埋めて"彼にもこういう人がいたはずなのに"という結論は軽薄だと思いました。ただそこがすごく良かった。

紺野は自身の限界を感じた時にアドバイスを受けてすぐ自分の撮ったことないもの=工場を見つけてくる男です。主人公も「はるばる湾岸までこなければ」と感じるほどには彼は自発的に動きました。就職でもそこから本社勤めで採用を受けるくらいの行動力があります。そんな彼ならいよいよ死を決意するまでにあらゆる生きる可能性を探したのではないかと思います。その中には異性との関り、他者との関りも当然あったと思う。紺野の救いはそんなところにはなかったのではないかなと。なのでこの話の結末は主人公が自身を落ち着けるためにすごく安易な答えを出したように感じたんです。

ただそう思って読んでみれば常に主人公は安易です。紺野の葬式の間も不安からあやめのことを考えていたり、葬式の後にその頭から離れない初恋の相手と二人の空間に身を置いたり。彼は大切な女性との関りを翌日の朝に狼藉と呼んでいて、予見ししっかり覚悟を決めていない状態だったことがわかります。また幼い頃のあやめとの別れも結局心の奥にしまってしまう。つまり常に不安定なこころの拠り所を教室、部活、異性、あやめ、その時々の身近なもので埋めています。

「思い人との離別や友との死別という簡単に対処できない、簡単に片づけてならない苦しみ」に対した時に誰もが「苦しみを和らげるために安直で本来的ではないもので心を埋めないと生きていけない悲哀」を描いているように感じました。苦しみをそのまま感じておけない悲しみ?すぐに心を埋めないといけない悲しみ?なのかな。あとこの考え方だとまさにあやめや紺野は偶像なのかなと。

5回くらい読んだのですが結局素直に読むべきか上記の読み方なのかどちらか断定しきれず勝手な邪推をぶつけてしましました。でもそこがすごくて主人公は紺野に対してもあやめに対しても軽薄で、でも読者がこの状況に自分が置かれたらと考えると主人公と同じ行動をとるだろうバランス。もし意図して書かれたならめちゃくちゃすごいです。もし意図してなかったら大変申し訳ないのですが、それでもこの作品超すごいです。「死だったり別れだったり耐えがたい苦しみを偶像でごまかし日々に溶かして生きるしかない」普遍的な悲哀を描いた非常に文学性の高い作品だと感じました。

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