次のニュースですー

狂気に落ちた男性の一人称に入り込む話。

テーマに対してすごく真摯に書かれています。PCで読んでいたのですが読み初めの印象としてはスマホに合わせて整えられた綺麗な見た目をしているなーが最初にきました。なんだか丁寧で気持ちの良い話なのか?が第一印象になります。

しかし読み進めていくとどうやらそうでない不穏な感じがします。追いかけてくる足音。ですが正体は何のこともない家族連れです。彼らは主人公と意思疎通せずに追い越していきます。ここもすごく良いです。恐怖を煽って肩透かしをさせるのだけど、実は物語のキーになる出来事です。

真っ赤な扉を開けてもここでも何か恐ろしいことが起きずに目が覚めて日常の台所に戻ります。夢だったのか。だけど"ーこっこっこっ"という普通の料理には必要ないくらいのまな板の音がずっと続きます。ホームパーティーの準備なのに男性一人で料理をしていて奥さんや子供は台所の近くにさえいない?ざわざわします

で2話に進むとあの整えられた文章ではなくなります。そして事件のニュースを聞かされます。

美しかったです。

まず整えられた文章。一行が短い。幅が狭い。男の視野が狭くなっているような感じがします。普通の人間の感覚ではない表現になっています。またスマホをイメージするので個人的な感覚もします。

モチーフが適切で必要なことを教えてくれます。無視して追い越す家族は理想の家族像ですね。主人公は理想を追いかけますが追いつくことも、意思疎通をとることさえできませんでした。無視です。そして真っ赤な扉を開けます。これは事件のメタファーですね。

私は妻子と友人が台所に来るのをいつまでも待っていた ”こんなにも楽しみなことはない!”いいですね。見えてない。すっきりした狂気を感じます。

で2章の結びがなにより良いです。

地域社会に大きな衝撃が走っています。警察は引き続き情報収集を行い、犯行の全貌を解明する方針です。次のニュースです―」

"方針"です。"次のニュースですー"絶対に全貌が解明されないと言っています。次のニュースがずっと続きますから。

単純な怖い話として終わるのではなくて、こういう事件の全容がわからぬまま、狂った人の犯行だからと怖がるばかりでずっと置き去りにされていることを示唆しています。ピリッと社会性も効かせつつ怖い話を地域社会で起きる身近な印象にしています。

見事でした。完成してます。おすすめです。

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