5


 生贄の儀式は次々と行われた。老女は狂ったように次の犠牲を求め、指名した。人々もそれに応えるように家族を捧げ、己の身を投げ打つ。供儀で治めるはずだった病は僅かも衰えることなく猛威を振るい続けている。

 この街はもう手遅れになってしまったのだと、アリン・チタは思った。


 すっかり人の少なくなった通りを輿に担がれながら、空に浮かぶ瞳を少年は見つける。結局、あれはただの「目」だったのだろう。人々はあれに勝手に名前を付けて、勝手に滅んでいこうとしている。

 あれは、僕らを脅かすことも、助けることもなかったじゃないか。


 目はただ彼らを見下ろしている。


 少年は街の外れの湖へと運ばれた。老女は高らかに神への言葉を唱え上げる。


「我らのうち最も尊き者を捧げます。どうか、どうか、我らに祝福とご加護を、我らをお救い下さいませ、ウィラコチャよ」


 輿がひっくり返る。湖へと投げ出されたのだ。この儀式は、普通の供儀にどうにも効き目がないからと、色々に生贄の方法を試したひとつであった。


 真上に輿が覆いかぶさっているのだ。とても浮かび上がって息継ぎをすることなどできない。少しずつ苦しく、少しずつ薄くなっていく意識の中で、アリン・チタは空を見上げようとしていた。

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藤田桜 @24ta-sakura

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