あとがき

 ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます。

 この物語は、『荒磯の姫君』の現代篇『夜風』の外伝、という位置づけです。

 また、『日本史研究室の午後』の一年半ぐらい前の物語、ということになります。

 物語の世界でできごとが起こった順序は、「カクヨム」での発表順とは違っていて、『しあわせな誕生日』→『日本史研究室の午後』→『夜風』の順です。

 夜風:https://kakuyomu.jp/works/16817139557255400350

 日本史研究室の午後:https://kakuyomu.jp/works/16816700426701538279


 コレクション 『荒磯の姫君』シリーズ:

 https://kakuyomu.jp/users/r_kiyose/collections/16816927862990194745


 ここまで『荒磯の姫君』から離れてしまうと『荒磯の姫君』ネタバレ問題は発生しません。

 しかし!

 ここまで関係が離れても。

 やっぱり登場するよなぁ、……。

 『荒磯の姫君』シリーズの「海の底の主役」のあの生物!

 シリーズ初の冬(初冬)の物語なので、この生物としては活動期、食材としてみれば(つんさんも言っているとおり)「旬」の季節ということにはなるのですが。

 じっさいに、冬になると、魚屋さんの店頭で、比較的よく見かけるようになりますよね、あの生物……。

 色は赤系、青系、黒系といろいろいて、大きさもいろいろ、けっこう大きなものもいます。


 今回は主人公に写真だけ見られて嫌われるというひどい展開です。

 まあ、先輩の

https://kakuyomu.jp/works/16817330649031883251/episodes/16817330649929818075


 でも、この生物が属する棘皮きょくひ動物のグループは、半索はんさく動物、脊索せきさく動物と関係が近いとされます。私たち人間は脊索動物に含まれる脊椎せきつい動物ですので、この生物は貝やイカやタコよりも私たちに近いことになります(酒のさかなばっかり!)。

 棘皮動物のなかでも、ヒトデはほぼ食用になりませんし、ウニは一部分が食べられるだけなのに対して、この生物は、(マナマコに関しては)ほぼ全身が食用になります。「このこ」は卵巣、「このわた」は内臓です(私はどちらも食べたことがありませんが)。私たちが普通に「なまこ」として食べている部分は皮膚ひふにあたるのだそうです。皮膚だとすると……けっこう分厚いですね。

 こんなふうに見ると、いろいろと私たちに縁の近い動物です。

 私自身は、見るのはあまり好きではないし、いただく機会もあまりないのですが、好きな方はどんどん愛好してくだされば、と思います。


 つん子さんの店(かっぽう坂上)そのもののモデルは存在しませんが、いまから二十年ほど前、ときどき通った店を思い出しながら書きました。

 それは寡黙かもくな老夫婦が経営している中華料理店でした。あまり明るくない照明、よく拭いてあるのに積年の汚れが染みついているカウンターのテーブル、使い古した円椅子という調度で、いかにも「くたびれた」感じのする店でした。

 でも料理は絶品でした。たぶん、店主ご夫婦が長年店をやって来たなかでアレンジし工夫した味付けだったのだろうと思います。唐揚げの独特の胡椒こしょうの香りや、あぶらのしつこい感じがほどよく抜けた肉料理、煮物の醤油が焦げた風味がいまも懐かしく思い出されます。小さめで、やや深い取り皿というのもこの店のものです。

 その後、引っ越したこともあって、この店には行かなくなり、やがて、この近くに住んでいる友人から、この店が閉店したことを知らされました。

 先日、たまたまこの近くまで行ったので、この店のあったあたりを見てみましたが、どこに店があったかまるでわかりませんでした。この店のくたびれた建物はもとより、ほかの建物も建て替わっていたようです。もしかすると、道路の拡幅かくふくかなにかで、町並み自体が変わっていたのかも知れません。


 タイトル『しあわせな誕生日』は、さだまさしさんの昔の曲「HAPPY BIRTHDAY」を思い出してつけたものです(NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』のテーマ曲「Birthday」とは別の曲です)。サビの部分にドキッとするような歌詞があります。先輩がこの歌詞をすなおに受け入れられるようになればいいな、と思って書きました。よかったら聴いてみてください。


 さて、『荒磯の姫君』現代篇とその外伝のシリーズの連載はいったんここでひと区切りとします。

 といっても、終わったわけではなく、初夏の頃には現代篇の次の作の連載を開始する予定です。

 それでは、また次の機会にお目にかかりましょう。


 2023年1月15日

  清瀬 六朗

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しあわせな誕生日 清瀬 六朗 @r_kiyose

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ