重厚で神秘的で人間たちのやるせなさを感じる洋書みたいなファンタジー

 翻訳小説みたいな神秘性を重視した物語です。バトル展開もありますが、それは数値による戦いではなくて、祝詞の正当性や術者の精神力による競い合いの要素が強いです。

 なんて堅苦しい言い方をするとライト層が拒絶しそうですが、ざっくりいえばハイファンタジー版もののけ姫です。

 大自然と守り神と呪術を基礎として、そこに中世の武器が関わってくるのは、東洋の隔てなく本来の意味でのファンタジーでしょうし。

(あくまでもののけ姫を出したのは、わかりやすさ重視のたとえであって、この物語はアクション要素が薄いです)

 物語の始まりが娼館なだけあって、どうしても物語全体がダークな雰囲気になりがちですが、本来中世時代というのは暗黒面が多く存在するわけですから、そこに真正面から取り組んだ本作は、意欲作といっていいでしょう。

 とはいっても、この物語は人間社会としての結末に向かうのではなく、タイトルにあるように守り人と大樹がどうなったのか、で完結します。

 人権の存在しない時代に、若くて力のない主人公とヒロインが、困難な道のりをどうやって走り切ったのか?

 重い物語を読みなれた人であれば、すんなり入っていけるでしょう。

 軽い物語しか読んだことのない人でも、これぐらい改行に気を使ってくれた作者の作品ですから、おそらく時間をかければ読めるはずです。

その他のおすすめレビュー

秋山機竜さんの他のおすすめレビュー325