枯れゆく世界の記憶と希望

読み通すのが重い。でもそれだけの価値がある作品です。

物語を覆い尽くすのは、乾いた土と砂、理不尽な生、諦め、生きたいと足掻く心とそれとは相容れない死への畏れ。そして、瑞々しく濃い蔭を落としていた木の記憶。

主軸になるのは、影祓いと呼ばれる葬祭職能集団に属する少年と、砂漠で死にかけたところを彼のいる「塚」に保護された少女です。
彼らの生活ぶりの描写はとても細やか。それにより、緩慢に終わりに向かう厳しい世界はそれなりの愛に満ちたものであることが示されます。
だけど淡々と綴られていく人々の暮らしにあるものは、影祓いの行う葬祭儀礼、娼館、奴隷売買。そして運命に抗う術のない、たくさんの死。ゆえに軽い物語ではありません。それでも読んでみてほしい。

「影」の示すものとは何なのか。
禁を破って流されるうちに向かうことになった少年と少女の旅路の果てにあるものを、ぜひ見届けてみてください。

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