読み通すのが重い。でもそれだけの価値がある作品です。
物語を覆い尽くすのは、乾いた土と砂、理不尽な生、諦め、生きたいと足掻く心とそれとは相容れない死への畏れ。そして、瑞々しく濃い蔭を落としていた木の記憶。
主軸になるのは、影祓いと呼ばれる葬祭職能集団に属する少年と、砂漠で死にかけたところを彼のいる「塚」に保護された少女です。
彼らの生活ぶりの描写はとても細やか。それにより、緩慢に終わりに向かう厳しい世界はそれなりの愛に満ちたものであることが示されます。
だけど淡々と綴られていく人々の暮らしにあるものは、影祓いの行う葬祭儀礼、娼館、奴隷売買。そして運命に抗う術のない、たくさんの死。ゆえに軽い物語ではありません。それでも読んでみてほしい。
「影」の示すものとは何なのか。
禁を破って流されるうちに向かうことになった少年と少女の旅路の果てにあるものを、ぜひ見届けてみてください。
翻訳小説みたいな神秘性を重視した物語です。バトル展開もありますが、それは数値による戦いではなくて、祝詞の正当性や術者の精神力による競い合いの要素が強いです。
なんて堅苦しい言い方をするとライト層が拒絶しそうですが、ざっくりいえばハイファンタジー版もののけ姫です。
大自然と守り神と呪術を基礎として、そこに中世の武器が関わってくるのは、東洋の隔てなく本来の意味でのファンタジーでしょうし。
(あくまでもののけ姫を出したのは、わかりやすさ重視のたとえであって、この物語はアクション要素が薄いです)
物語の始まりが娼館なだけあって、どうしても物語全体がダークな雰囲気になりがちですが、本来中世時代というのは暗黒面が多く存在するわけですから、そこに真正面から取り組んだ本作は、意欲作といっていいでしょう。
とはいっても、この物語は人間社会としての結末に向かうのではなく、タイトルにあるように守り人と大樹がどうなったのか、で完結します。
人権の存在しない時代に、若くて力のない主人公とヒロインが、困難な道のりをどうやって走り切ったのか?
重い物語を読みなれた人であれば、すんなり入っていけるでしょう。
軽い物語しか読んだことのない人でも、これぐらい改行に気を使ってくれた作者の作品ですから、おそらく時間をかければ読めるはずです。