トーキョー(Suburban)ライフ
イカワ ミヒロ
第26話 焼き芋の食い逃げ
近所のスーパーには、入り口の手前に焼き芋機が置いてある。あの四角くって上がガラスになっていて、その中に紙袋入りの芋が積み上がっているアレ。いつも甘い匂いが漂っていて、ついつい買ってしまう。私の買い物ランキング(食べ物編)の上位三位には焼き芋が入っている。ちなみに残りの二つはりんごと小松菜(安いから)である。
先日のこと。
いつもどおりにスーパーに入ろうと思ったら、焼き芋機の前に女子高生がいた。肩よりちょっと長い直毛黒髪。白のオーバーサイズのカーディガンにグレーのプリーツスカートという、いかにもな女子高生。
彼女は、ガラスケースの中に積み上がっていた紙に包まれた芋をひとつとると、目にも止まらぬ速さで一口かじってまたケースに戻したのだ。
正直にいうと、あまりに素早い行動だったので本当にかじったのかどうかわからない。今思い起こしても、私が確かに見たと言えるのは、芋の包みに手を伸ばす彼女と、その後、袋を戻して口をもぐもぐさせている彼女の姿だ。
そして彼女は、口をもぐもぐさせたままスーパーに入っていった。そして入り口を入ってすぐにある野菜売り場に佇んでいた。
私はスーパーの二階に用があったので、彼女を振り返りつつ階段を登っていったのだが、どうすればよかったのかよくわからない。
とっさに思ったのは、「えっ、こわ!」ということだった。
芋を盗んでその場を立ち去るなら、それはそれでいい。「芋を食べたかったんだね」と思えるからだ。
でも、食べた芋を元に戻すということは、誰か別の人がそれを手にするかもしれない、ということをわかっているはずだ。そして、そのまま野菜売り場に佇んでいたということは、誰かがその芋を手にすることを目撃したかったのではないだろうか。
いわゆる愉快犯ってやつなんじゃないかと思う。
「あなた、今芋食べたよね?」と言えるほどはっきり芋をかじった瞬間を見たわけではなかったので、気になりつつも二階に行ってしまったのだが、今どきのスーパーには監視カメラがあると思うので遅かれ早かれ身元は割れるのではないかなと思う。
どういう理由にしろ、グループで行動して気が大きくなっていたわけでもなく、たった一人でその若さでそんな行動を取るのは、なんかよっぽど鬱屈が溜まってたんじゃないかなと思った。
深い闇を見た気がする。
そんなことがあったので、焼き芋を買うのは以降控えようかと……思いません。今後も変わらず芋は買います。
(2024 年 2 月 12 日)
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