第2話 痛車

 痛車と言うものを初めて見た。今年の 4 月である。近所のアパートの駐車場に停められていた。

 万が一、知らない方のために説明しておくと、痛車とは車体にアニメやゲームのキャラクターを装飾した自動車である。

 その車が停まっている駐車場は少し高いところにあって、歩道からは見えないのだが、バスに乗っているときに目に入った。その後、歩きでその駐車場まで確かめに行き、こっそり写真も撮ってしまった。もちろんナンバーなどは入れていない。多分、痛車としてはおとなしい方で、白い車の助手席側のドアからフロント フェンダーにかけて、いわゆる美少女のイラストが描いてあった。セーラー服風のコスチュームに手袋をはめ、日本刀を持った長い黒髪の少女がキリリとした表情でこちらを向いている。少女にオーバラップして「斑鳩」と書いてあった。調べてみると「閃乱カグラ」というゲームのキャラクターらしい。忍者の学校で生徒たちがバトルを繰り広げるというストーリーのようだ。ゲームのジャンルには爆◯ハイパーバトルと書いてあった。どんなジャンルだよ……。

 そして、先日また通りかかると絵が変わっていた。やはり長い黒髪の少女で(そういうタイプが好きなんだな)、ニーハイ ソックスに赤いボウ タイとブレザーという制服姿だ。斑鳩ちゃんとは異なり、本を手にして、こちらにいたずらっぽく微笑んでいるのが可愛らしい。絵の位置は以前と同じだ。横に KAMAKURA SIO と書いてあったので、はやり調べてみたがなかなか見つからない。更に名前の横に書いてあった HAMIDASHI CREATIVE で検索してみると、ハミダシクリエイティブというゲームのキャラクター、鎌倉詩桜ということが判明した。ゲームのジャンルは……。えっ、こんなゲームのキャラ、車の横に堂々と描いていいんですか?

 何にせよ、推しへの愛を公表しながら運転するのは楽しそうである。私だったら……。いや、これ以上言うのは止めておく。

 今日、同じ駐車場を通りかかったら詩桜ちゃんが消えていた。こんなにさらっと素の車に戻ってしまうということは、案外簡単で安価に装飾し直せるに違いない。多分、近いうちに新しい黒髪の美少女が現れるのだろう。どんな絵になるのか楽しみである。


(2022 年 10 月 7 日)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る