第8話 三本目の線香
兄の家へ久し振りに訪ねていった。
夜、車で送ってもらっている途中に兄が突然、「なんか変なこと起きてない?」と言う。
変なこと? 特に起きてないけど……。
「実はさ……」という兄が話してくれたのは。
私が上京している間に泊まっているのは、ハハが住んでいた家だ。そこには兄が時々来て、家の様子を見て回った後、仏壇に線香を上げていく。
先日も会社帰りにやって来て、いつものように線香を二本点ててお茶を飲み始めたそうだ。ふと気が付くと、変なところから煙が上がっている。立ち上がって見てみると、線香が床に落ちていたそうだ。慌てて拾ったが、床に焦げが出来てしまったらしい。
私もこの焦げには気が付いていた。仏壇の前にあるのだが、微妙に仏壇から離れたところにあって、手元からぽろっと落ちたにしてはおかしい。なんでこんな離れたところに焦げがあるのだろう、と思っていたのだ。
兄は拾い上げた線香を、線香立てに戻そうとして気が付いた。二本の線香は彼が点てたままそのまま残っているのだ。床から拾ったのは三本目の線香。
その線香はどこから来たのか……。
「どこかから落ちてきたとしか思えないんだよね」
それ以来、怖くて家には行っていないと言う。その気持はわかる。兄はそういう話が苦手なのだ。一人でそれは怖かったに違いない。私もこの話を聞いて思わず「
兄は別に霊感体質なわけでもないし、この家でそんな不思議なことは今まで起きたことがなかったので、これはやはりウキウキしまくっているハハのしわざなのではないかと思っている。ただ、なんのために三本目の線香を出してきたのかは謎だ。山姥に追われているわけでもないし、貼りようもない。それに火事とか起こしそうな危険行為じゃないか。ましてや、兄がビビりだということを知っていて、そんな驚かすような真似をするのも解せない。二本じゃ足りなくて、もう一本誰か欲しい人がいたんだろうか。または、はしゃぎ過ぎたのか。ちょっと謎の残る事件である。
(2022 年 10 月 24 日)
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