これは小説で描かれた絵画。美しく愛しい物語全部を抱きしめていたい

こんなにも素晴らしい作品を無料で読めて良いのか、と驚きながら読ませていただきました。
とにかく美しい作品です。
まず表現ひとつひとつが本当に美しくて、これは小説で描かれた絵だと思いました。読んでいて映像や色が見える、という次元をこえて、本当にたくさんの描写にうっとりとさせていただきました。
次に、登場人物のあり方が美しいです。深いところで繋がっている澪と彗の関係性が美しく尊いのはもちろん、二人が自他や未来に向ける気持ちもとても素敵でした。迷子になったり葛藤したり、人の本質的なところに目を向けたり。自分にとって一番大事なことを見誤らず、自分の意思で、自分の目指したいところへ向かっていける強さや喜びを感じました。それを時に支え、時に揺さぶる、二人以外の登場人物達も、人や物事と深く向き合っていて、本当に素敵でした。
作中では学ぶことの楽しさにも触れられていました。この作品自体にも様々な知的なものが散りばめられていて、それは、知識に裏付けられた作品であるという驚きだけでなく、知るということの楽しさも体験させてくれました。

個人的に、絵を描くという行為は、自分の内面や対象、そして技術的な面と深く向き合う行為だと思っています。対象を深く観察し、自分というフィルターを通し、対象を理解あるいは自分が最も表現したいものを捉え、実際に描き出す。たとえ同じ対象でも、その人の観察眼や人柄、知識等によって見え方は異なるし、技術がなければ自分の中にあるイメージを絵として再現することは難しいと思います。
主観的な感覚になりますが、これによく似た、深く自分と向き合う・相手と向き合う・物事と向き合う、という行為を、この作品に登場する人物達はしていたように思います。
また、同じ対象であっても様々な言葉で表すことができる、というのも印象的でした。形のないものに形を与えると、取り零されるニュアンスが出てしまう。それでも、誰かに伝えるためには言葉にはめなくてはならない。勝手ながら、この作品を読んで感じたことを的確な言葉にできない自分のもどかしさと通ずるものがあるとも思いました。

心に残ったシーンや表現はたくさんあるのですが、今一番鮮やかに残っているのは、ガーデンテーブルに積もったミモザの花を撫でる手です。一枚の写真のように、意味を持って私の中に焼き付いています。

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