第18話 あれから



 私は、忙しさのあまり完全にエドワードの事を忘れていたさ。

それでも、此の物語を書こうと思ったのには理由があるんだよ。

処分しようと思っていた手紙を引き出しから取り出し、わざわざ和訳をしようと思ったことには理由があるのさ。


 今もこうやって、此の物語を書いているがね。

書斎の中で一人きりで書いてるけどさ。

閉じたはずの書斎の扉が今日も少しだけ開いているんだよ。

いつの間に?

気にすることはない、最近では当たり前のことさ。

ただね、その向こうで、こちらの様子を伺っている奴がいるのさ。

そう、深淵の底の暗闇のような瞳で、私を見ている奴がいるんだよ。


 分かるかい? エドワードは、まだ生きているのさ。


 最近、仕事仲間が、私の態度や言葉遣いがおかしくなってるって言うのさ。

そうかもしれない。

エドワードの手紙を読んだ連中は、みんなエドワードに頭を乗っ取られちまう。

そうさ、その通りさ。

最後の手紙で、苦情の返信は受け付けないとあった。

今じゃ、よく分かるよ。

あの最後の手紙は間違いなく、苦情の手紙を処理できなくなったエドワードの身内からだろう。

じゃぁ何でエドワードと記名して寄こしたのか?

簡単なことさ、自分の名前を教えたくなかっただけさ。

手紙の文字が似ていた?

それは分からない。

想像だが、あの時のエドワードが、誰かさんの文字を真似して書いていただけかもしれない。

今じゃ分からないことと、やっと分かったことが混在してるよ。



 エドワードからの手紙、いや、その文字にだ。

そいつには、どんな菌が封じ込まれているのか知らないが、感染性の文字なのさ。

要するに、そいつら文字は宿主を望み探しているのさ。


 今、私は無性に手紙を書きたくなっている。

誰でもいい、この話を広げたいんだ。

私だけが不幸になる?

奴と文通してた仲間だけが不幸になる?

勘弁してくれよ。

この物語の事実の中で共に歩く仲間が欲しいのさ。

いや、そうね、そう、仲間が欲しい? 


 違うね、既に広げているようなものなのだから、あんたらも感染するさ。

欲しいのは、隔離されるべき素敵な仲間を増やしたいってことさ。

此の物語を書いたのも、そう言うことなのだから。


 そしてこの物語もここで終わりだ。


 じゃあな、兄弟、また会おう。

私は、ここで、いつでも待ってるよ、優しくも、既に呪われた仲間達を。

終わらない物語の終わりってやつさ。


 さよならエドワード、さよなら私。

そして、ようこそ、皆様。

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エドワードとの文通 織風 羊 @orikaze

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