大空を征く

本作は明治後期から昭和を舞台として、日本初飛行を成し遂げた二人の男の物語です。

片や、没落華族の復権を志す男。片や、夢想を抱いて発明に明け暮れる男。
軍命を受けた二人は、フランスで航空技術を学び、そして武蔵野の空を飛ぶのですが、その先に待っていたのは光と影、栄光と挫折の明暗でした。

日本の近代史の１頁を武蔵野と絡めた奥深い情緒を持つ短編作品です。

　私は「歴史に埋もれてしまっている偉人」てのが大好きでして、もちろん「この物語の主人公」のことも知っていました。でも、多分、知らない人多いんじゃないかなと思います。

　人類の歴史、日本の歴史って、こういう人たちの積み重ねによって「今」があるんですよね。こういう人たちにこそ「光」が当たって欲しいと私は思っています。

　ネタバレは一切しません。短編ですので是非読んでいただいて、その時代に思いをはせてください。

作中の日野の言葉に、過日物故した大おじの言葉を思い出した。
空は自由で広い。

太平洋戦争中二式水上戦闘機に乗り、教え子を特攻隊にとられる辛さに自分が志願しても認められず、終戦時に自分を失ってしまった大おじ。
波乱の後半生を送ることを余儀なくされた彼だが、晩年まで「もう一度空を飛びたい。飛行機を操りたい」
と言い続けていた。

空の上は広やかで何にも縛られない。
自分が世界に同化する喜び。
これは他の何を持っても替えられなかった。
日野も徳川も、武蔵野の大地の上で、自分たちを取り巻く煩わしい重荷を下ろし、世界と同化する喜びを得ていたはずだ。

おりしも朝ドラでは飛行学校の話が放映されている。…続きを読む

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（299文字）

語られないことは多々あり、それは良いことの筈なのに、
何かの権力で白が黒になる。
そこに巻き込まれた白にされた男の公開を晴らす。
気持ちよかったです。

この物語にでてくる様な事例は実際の実社会でも良くある事だと思います。
でも、それをきちんと振り返る事が出来る事。
人間の評価は全く、棺を蓋う時までわかりません。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（96文字）

武勲でも発明でなく、日本が持っていた本当の誉れは、気高さであり精神であり誠心。

それが形骸化していては、どうやっても日本は再生しないだろう。

戦時下の盲信的な集団心理が、狂気として取り沙汰される昨今だが、今の日本が忘れてしまった高い精神性も当時は確かにあったことを思い起こさせてくれる作品。