空は自由で広く、飛ぶのは悩み多き人間である

作中の日野の言葉に、過日物故した大おじの言葉を思い出した。
空は自由で広い。

太平洋戦争中二式水上戦闘機に乗り、教え子を特攻隊にとられる辛さに自分が志願しても認められず、終戦時に自分を失ってしまった大おじ。
波乱の後半生を送ることを余儀なくされた彼だが、晩年まで「もう一度空を飛びたい。飛行機を操りたい」
と言い続けていた。

空の上は広やかで何にも縛られない。
自分が世界に同化する喜び。
これは他の何を持っても替えられなかった。
日野も徳川も、武蔵野の大地の上で、自分たちを取り巻く煩わしい重荷を下ろし、世界と同化する喜びを得ていたはずだ。

おりしも朝ドラでは飛行学校の話が放映されている。
地上の悩み多き私達も、空を飛ぶ飛行機の機影を眺めれば、その悩みを一寸でも忘れる事が出来るのかもしれない。

快作。

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