嘗て世界がモノクロームだった頃

感情を喪った少年は鮮やかな世界を知り、色を喪った少女は豊かな心の動きを知る…

読み進めて道半ば、予期せぬ逆転の構図を目の当たりにします。ボーイ・ミーツ・ガールの序章とは裏腹に、凡百のそれとは著しく異なる少年と少女の冒険譚。安らかな語り口の陰に才気が迸る意欲作です。

その一方、韜晦も罠もなく、物語は何処迄も真っ直ぐで、主人公は何処迄も純粋です。彼と彼女に関わり、脇を固める登場人物も一途で、敵として現れた者も亦、単なる憎しみの塊には見えません。

救いがあり、優しさがあります。物語を貫くベースで、愛くるしい獅子丸に萌え、スイーツに舌嘗めずりします。穏やかで慈悲に溢れた世界です。

では、それを形作るものは何か? 作者のページターナーぶりが発揮されて読み進めるうち、第四十八話で、衝撃を受け、立ち止まりました。

「人間たちは皆、幸せを作る力と、未来を切り拓く力を持ってる。(略)その力の真価は、他者をも幸せにし、希望を与える力だ」(セオの言葉)

感銘を受ける至言、金言です。これは優しさだけに留まらない、力強い希望の言葉、福音です。この前後の会話も、パステルの思案も奥が深く、実に印象的。本作に通底する作者の信念と世界観が、そこに挟み込まれているようにも読み解けます。

これから読み進める多く方は勿論、最新話まで精読された方も、是非、第四十八話に注目して下さい。絶品です、宝物のようです。
(失礼しました。少し興奮してしまいました)

冗長が過ぎるので、本題の「モノクローム」に関する考察は、大幅に端折ります。それは端的に言えば「果たしてモノクロームの世界は寂しく、味気なく、詰まらないものなのか?」という疑問、私個人に突き付けられた新たな命題です。

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