人間関係の不信感が最大のミステリーになる良作

 最初の数話の時点で、登場人物たちが信用できなくなっていきます。

 この信用できないというのは、物語の構造上『この人物は嘘をついているかもしれない』と読者に思わせるような作りになっているからですね。

 主人公は、SNS上に憧れている人物がいました。

 しかしその憧れている人物が、ある日まるで殺されたような動画が投稿されて、実際行方不明になってしまいます。

 主人公は、その人物と同じ学校に通っているため、憧れの人物を探すこと、および犯人探しに乗り出します。

 ですがレビューの最初に触れたように、登場人物たちが信用できない人物として描かれているため、物語の全貌が霧に包まれたみたいに隠されています。

 実際物語を読み進めていくと、やっぱりこの人物は嘘をついていたのか、事実を隠していたのか、という流れが連続して起きるようになります。

 それでいて、嘘をついた人物には相応の事情があるので、必ずしも犯人に直結するわけではありませんでした。

 しかもお互いに嘘をついているせいで、人間関係が縮まりそうで縮まらないため、事件の真実に近づくことが困難になっています。

 そんな事件の手がかりは、SNSです。

 実名でアカウントを運用している人、匿名でアカウントを運用している人、それぞれの立場が深く交わることによって、事件の真相にたどりつくことになります。

 もしこの物語に、名探偵みたいな人物がいたら、きっと事件は早期解決していたんでしょう。しかし心身ともに未熟な人物ばかり登場するので、犯人が遠ざかってしまうのです。

 逆に考えれば、未熟ゆえの危うい情報収集こそが、この物語の醍醐味です。

 このレビューを読んだみなさんも、ハラハラしながら物語を読み進めていくといいと思いますよ。

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