誰もが心に押し込めているものがある

みんな誰もが心に押し込めているものがある。
特に思春期で未成熟な心を持っている学生は、その想いをうまく消化できずに、時には立ち止まってしまう。
本作は、そんな心を様々な形で表現した珠玉の物語である。

物語は、人と関わることを怖がる紬希と、人の役に立ちたい優芽の二人が中心となって描かれる。
紬希は何事も深く考えるたちがあり、それ自体は悪いことではないはずだが、彼女は何事もマイナスに捉えてしまう。その結果、自傷行為のように自分を否定して、自己嫌悪してしまう。
優芽は反対に考えることが苦手であり、難しい話になると眠ってしまうほど。考えるよりもまず先に行動! というスタンスで、誰かの役に立つために様々なことにチャレンジしていく。

正反対ではあるが、二人とも互いに足りない部分を補うことができており、互いに相手の自分にはない魅力を羨んでいる。

紬希は、自分の足りない部分に自覚的であり、自分のことを『宇宙人』だと思っている。
みんなのように当たり前に人と会話できない、当たり前に感情の機微を察せない、当たり前に周囲と合わせられない……。
独自解釈であらぬ方向へと突き進み、間違った思考に行き着き、破綻する歪みを抱えていると考えている。
優芽を尊敬しながらも、彼女のようにはなれないと自己嫌悪が膨らむ紬希。

優芽は自分の知らないことを知り、勉強ができて、何ごとも深く考えられる紬希のことを尊敬し、紬希を頼りにしている。
しかし、それをうまく伝えられず、紬希が自己嫌悪から抜け出せるきっかけを与えられずにいる。
何よりも、紬希の『宇宙人』だと思い込んでいる心を知らずにいる。
それは、思考するのが苦手だからであり、優芽もその点は自覚的であるがために自分から難しい思考を放棄している。
頭が悪く取り得もないから、せめて人助けをすることで自分の価値を高めたいと思う優芽。

二人とも魅力ある能力を持ちつつも、自分自身をうまく消化できていない。
そんな思春期の苦悩と葛藤を、様々な視点からひとつの物語として編み込んだ本作は、上質な人間ドラマである。

是非とも、ご一読いただきたい。

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