第7話 夏休みの推しも可愛い!!

 夏の風物詩、オアシス、1学期を乗り越えたご褒美。世の中は、夏休みで浮かれていた。

 テレビの特集は、海、プール、レジャー施設! 

 そして、高校3年生は、勉強、勉強、勉強!

 とは言ったものの、私は学校に行くがあまり勉強はしなかった。

 勉強よりも、いつ推しに会えて、偶然を装い情報収集ができるかばかり考えていた。

 この世界は、私の推し事のためにある世界なのだ!

 用が無いのに、体育教官室の前をウロウロするのはどうかと思ったから、まずは1週間使って調査をしてみることにした。

 職員室の近くにある机で、1日丸々張り込みをする事だった。

 1週間で1番会った時間が多い時間を中心に学校に来ることにしたのだ。

 昼休みのチャイムが鳴って、私のお腹の虫も鳴き始めた時のこと。

 お腹を抑えながら、推しノートと化した手帳をパラパラとめくっていた。

 誰かが階段を登ってくる音が聞こえてくる。

 丸一日居るとなると、すれ違う生徒や先生を沢山見てきた。タヌキも見た。

 勉強偽装の為に参考書の適当なページを開いた。

「お、式地さんや」

「ヘァッ」

 声で分かる、推しだ。

 心に棲んでいたモンスターが飛び出した。

 意図して育てていたわけでは無いのだが。

「ど、どうして、先生……?」

 会う回数を増やして先生と距離を縮めるための戦略だったはずなのに、逆に声をかけられてしどろもどろになってしまう。

「そりゃここが職場やからな」

 吹谷先生は当たり前のことを答える。

(聞きたいこととちょっとズレてるけどそういうところも可愛くてギャップで満点すぎる……)

 答えに満足しかけたが、頑張って踏みとどまる。

「体育教官室に居たんですか? てっきり暑いから職員室にいるものかと……」

 質問したかったことを理解したらしい先生は、ああ! と声を出した。

 それが可愛らしくて顔を歪めかけたが、歯を食いしばって耐えた。

「お腹減ったから、職員室に戻ってきてん。ご飯は職員室で食べるから」

 先生は「式地さんもご飯食べや。あ、あと、熱中症気をつけんとあかんで、倒れるで」と言って、職員室に入って行った。

(あかん、可愛いが止まらん)

 布でできているリュックを殴って気持ちを落ち着かせる。

 最後に深呼吸して、落ち着いた。そして、手帳を開いた。

『昼休み 会える』

 赤ペンで文字を書いて、縁取った。

『ちょっと天然っぽい』、『お腹が減ったから   ご飯食べにきた』『心配!!! してくれた!!!』と走り書きした。

 書いている途中も可愛い所を思い出して、荒ぶりかけたが何度も机に突っ伏して抑え込んだ。

 1週間の統計は、やはり昼休みに会えることを指していた。私はこの日から、昼休みを中心に学校に来ようと決めた。


 家に帰っていつもの掲示板を開いた。

『今日は先生の可愛い言動を聞いてしまって嬉しすぎて涙出た』

 1番に反応してくれたのはいつもの友達だった。

『夏休みなのに学校行ってるんだね、えらいね』

『ありがとう。今日天然っぽいところを見つけてしまった、お腹減ったとかいってて可愛くて悶えた』

『めっちゃ好きじゃん。まあよかったね』

 私は他にもあるんだよと続けて、満足するまで書き込んだ。

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