第2話 彼氏
翌日も私は廊下の窓に張り付いていた。
「はぁ……」
毎休み窓に張り付いていると、いつか吹谷先生が見えると思ってずっと居るのだ。
休み時間が5分を切って諦めかけた時、吹谷先生が見えた。
手帳にすかさず『水曜日 3時間目の休み時間』とメモをする。
今日の推しも輝いて見える。周りの空気さえも輝いている。
推しのいる人生って最高。
エリカは呆れ顔で私に言った。
「会いに行けばいいのに」
「違うのよ、近くにいたら心臓が破裂するのよ。崇高な存在、同じ空気を吸ってるだけで私は幸せ……」
私は「神様、ありがとう」と外に拝む。
彼女は分かりやすくため息をついた。
「ねえ知ってる!? 吹谷先生ってね、お礼を言う時って『神様、ありがとう』って言うんだよ、可愛くない? 尊くない? まじ無理なんですけど」
「死ぬぅ」と悶える私にエリカは「それ、3回は聞いてる」と言われてしまった。
「そんなことよりも、あんたの彼氏いるよ」
「え? 彼氏?」
最近別れたばっかなんだけど、と思いながらエリカの指した方を見た。
黒髪で甘い顔立ちの男の子。そうか、高校時代にも彼氏いたっけ。川見輝、アキって呼んでたなと思い出した。
私はアキに背を向けて教室に歩き出す。
「え、彼氏と喋んないの?」
私は頷いて、「いやぁ、なんだか恥ずかしくって……」と答えた。
いや、普通に気まずいし何話せばいいのかわかんないし。
「吹谷先生の熱量を彼氏に向けたらいいのに」
なんて後ろで言われながらも机に戻った。
帰りのホームルームを終え、私はすぐに体育教官室に向かった。
体育を見学する理由を伝えに来たのだ。
吹谷先生とお喋りできるかもしれないというよこしまな考えがないとは言い切れない。
(だって「会えるかもよ」とか言われたら期待するやん?)
私はうきうきしながら教官室のドアを3回ノックをして、「失礼しまーす」と声を掛けた後開けた。
この世界には人類は二つに分けられる。
推しか、そうでないかだ。
目の前に居たのは、推しではなかった。部屋の中にも居なかった。
「式地か、どうした?」
中年のおっさんで、エリカは「タヌキ」と呼んでいた。
(動けるタヌキとも言ってたけど、パワーワードなんだよなぁ……)
「足の指を骨折しちゃって、体育に出られなくなってしまったので報告にきました」
「それは災難だったな。ギプスとか松葉杖はないん?」
「私もあるとおもってたんですけど、キャップと包帯を渡されたんですよ」
「そうか、じゃあしばらくレポート書いてもらう形になるな」
タヌキはレポート用紙を何枚か私に渡した。
ありがとうございました、失礼しますと頭を下げた私は、足早に教官室を後にした。
(次はレポートか、推しに会えたらいいな)
家に帰ると、パソコンを起動して、お気に入りの掲示板を開いた。
『先生に、会えなかった、あまり期待してなかったけど、悲しすぎて泣いた』
投稿すると、友人からレスが飛んできた。
『そんな時もある、てか最近彼氏の話全然しないじゃん。彼氏飽きた? いつでも私のところにおいでよ、愛しているからさ』
と返ってきた。
『今は先生に夢中だからなぁ。ありがと、考えとく』
と適当に返事をして、パソコンを閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます