第8話 夏祭りは行かないらしい

昼休みの前後を職員室前で勉強することが日常になった。先生の成分を摂取した後、小説を書いていたら、資料が欲しくなり、図書室に閉じこもっていた時のこと。

最終下校の放送が始まってしまった。

やばいと思い、帰る準備を済ませて正門をくぐる。すると、見慣れた後ろ姿を見つけた。

アキだった。

私は彼に『後ろ見て』とラインを送る。

アキは携帯を操作し、振り向いた。

私は彼に手を振る。まだ足が完治していないから走れない。アキが来てくれた。

「お疲れ様、この時間まで残ってるの?」

彼はこくりと頷く。

「補講を受けてるからね」

「すごい! 頑張ってるねぇ」

「ありがとう。てか足の調子どう?」

「ぼちぼち治ってきてるよ」

私がピースすれば、彼も真似してくれる。

「困ったことあったらいつでも言ってな」

「できることはするから」と、付け加えた彼にありがとうと微笑んだ。

(ぶっちゃけ治らなくてもいいんだけどな)

二学期になっても見学ができたら、レポートを先生に見てもらえるし。

「ねえねえ、アキは吹谷先生って知ってる?」

アキは「いた気がする」と思い出そうとしていた。そして続ける。「その人がどうしたの?」

「いや、ビジュ、じゃなくて、見た目が良すぎて、見るたびに癒されるんよ……」

アキはそっぽを向いて、ふぅん、と返事をした。

あまりよくない話題を選んでしまったらしい。それ以上は言わないでおこうと思った。

(きっと昔ならあまり気にせずに推しの良さを語り散らしてたやろうけど)

リュックの紐を遊びながら坂を下る。

夕方だから少し涼しい。

「そういえば、小説書き上げれそうだよ」

「お、いいやーん、また見せてな」

アキは小説を楽しみにしてくれる。

どんな小説でも楽しんで読んでくれる人だ。

「もちろん、1番に見せるよ」

「楽しみや」

「うん、待っててね」

言いたいことを言えて満足した私に、「話変わるんだけどさ」とアキは言った。

「ん? どうしたん?」

「夏祭り、行かんつもりでおる。勉強しようと思って」

「そっか、頑張ってね」

アキは申し訳なさそうに、「ごめんね」と呟いた。

(そういえばこの時、高校最後なのに、夏祭り行かないなんて、って思ったっけ)

無責任なネットの友達には「浮気なんじゃないの?」なんて愉快そうに言われたっけ。

そんなことするような彼ではない事を私は知っている。

私は慌てて「気にしないで! 勉強大事だし!」と手を顔の前で振った。


私はいつもの作業になってきた、パソコンを起動し、掲示板を開いた。

『【悲報】最後の高校生の夏休み、彼氏と夏祭り行けない』

と、書き込むと、すぐにレスがついた。いつもの友達だ。

『まじ?w浮気じゃないの?wやっぱりそんなやつよりも私の方がいいんじゃね?』

『そう言うと思った』

『運命じゃん。付き合っちゃおうよ』

『気が向いたらね』

私は適当にあしらってパソコンの電源を切った。

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