第9話 花火

夏祭りの3日前に「夏祭り、やっぱり一緒にいかん?」というラインが来た。

もしかしたら私が分かりやすく落胆していたから、時間を作ってくれたのかもしれない。

「いいよ、楽しみ!」と返事した。

夏祭りの日になるのはあっという間だった。アキと合流して会場に向かう。

「去年も行ったな」

アキの言葉で、私は当時のことを思い出す。一緒に浴衣を着て夏祭りを楽しんだっけ。

「懐かしいね」

「また一緒に浴衣着てどこか行こうな」

(でもね、今年で最後なんだよ)

私がどう返そうかと黙り込んでいると、アキは屋台を見渡して、「どこ行こ?」と聞いてくれる。

「フルーツ飴行かん? オムそば食べたいけど、夏バテでそんな食べれる気がしなくって」

「いいよ! じゃあそれにしよっか」

人混みに攫われないように、彼の服の裾を握った。

アキは振り返って、手を差し出した。

「いこっか」

「うんっ」

私は彼の手を握った。


フルーツ飴の屋台で悩みに悩んだ私は、みかん飴にした。

「これ食べ終わった頃に、花火始まるくらいかな」

キウイ飴を食べる彼はそんなこと言っていた。

「楽しみだねぇ」

私はみかん飴をひと房ずつ食べながら、「いる?」とアキに差し出した。

ためらった後、彼はかぶりついた。

「ん、んまっ」

「美味しいよね、みかん」

顔を見合わせて笑う。

会場のアナウンスの後、程なくして花火が打ち上がった。

大きな音がした刹那、火花が弾けて、きらきら輝いた。

周りが静かになる。

水面に映る花火の儚さが相まって可憐だった。

夜空が星よりも輝いて、残像さえもずっと残ってくれそうな気がして。

まるで私たちみたい。

いつかひらひらと散っていく姿もとても輝いていて、空が綺麗な涙を流しているみたい。

(ずっといっしょじゃない事は、分かっているのに)

夢中で花火を見ている彼の横顔は、きらきらと輝いていて、とても美しかった。

ねぇ、と掠れた声で私は小さく呟いた。

「忘れないで」

彼の手にそっと手を重ねた。


このまま解散するのは何かが物足りない気がして、家の近くの公園で少し話すことにした。

「綺麗だったな」

「見惚れちゃった」

私はコンビニで買ったフランクフルトを齧りながら余韻に浸る。

「来年も行けたらいいね」

私は、なんとなく言ってみた。

「そうだね。今度は希美さんの浴衣姿、見れるかな?」

アキは無邪気に笑った。

ここで、約束、なんて言ってしまうと酷な気がして、うん、と答えた。

そしてブランコに乗って、ゆっくりと漕いだ。

夏の風が心地よかった。

「希美」

アキが私を呼び捨てする時は、大体がイチャイチャしたいときだと思っている。

私は彼の胸に飛び付いた。

彼は抱きしめ返してくれる。

アキの心臓の音、息遣い、温もり。

誰もいない公園。ふたりだけの世界みたい。

ゆっくりと顔を上げた私は彼にキスをした。

(大好きだったよ)

驚いた顔をした彼に歯を見せて笑った。

「さて、もうそろそろ帰らないと」

携帯を見ると、22時を回っていた。


家に帰って、私は掲示板を開いた。

『彼氏と夏祭り、行ってきたよ』

いつもの友達が反応してくれた。

『おお、この時間に居るって珍しいね。楽しかった?』

『うん、楽しかった。でもちょっと眠いから落ちるわ』

私は相当こうして、パソコンの電源を落として、布団に入った。

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