後編

 私はやっと実感が湧いた。目の前が真っ暗になってきた。

 線路に落ち、ズタズタになった二人の男の首がコチラをじっと見ている。

「やったじゃん萌ちゃん!! デビュー戦大勝利だね!」

 季実子が背後から抱き着いてくる。どくろの面を付けたまま抱き着いてこられるのは怖いよ、ね。

「良かったね、萌ちゃん。駅長さんも喜ぶ、ね」

 妖花は静かに言った。何かを心の中に秘めたような低い声。そして、新輝に対する皮肉。それに対して、萌はイラっと来た。。それは、知らぬ間に芽生えた恋心なのだろうか。




 この駅に着任して一カ月。最近はよく客が降りてきてしまう。そのたびに、私に任務が回る。

 毎回躊躇してしまうが、新輝に何か言われると、行ってしまう。


 ザクッ

 ドロドロ

 ジョボジョボ

 ボトッ


 で、萌は殺人鬼になってしまう。

 でも、終わると結構後悔が襲ってくるのだ。

 ――私、新輝に洗脳されてんのかな。




「オラァァァ!!!! このっ、死ねぇ!!!!」

「や、め、て……。照一君……」

「桜花……」

 萌はホームに立ち、あるカップルを刺していた。

 ホームにはこれまでにない量の血がにじんでいる。

 ――この二人、愛し合ってるんだ。純粋な心で。

 萌の包丁を動かす手が数秒止まった。

「今だ!」

 照一と言った男が包丁を奪おうとしてきた。

 萌は狂気モードに戻り、とどめの一撃を彼の胸元に刺した。

「桜花……」

 彼はほおって、桜花と言った女の胸も四回くらい刺し、最後に口を刺した。

 ジャバジャバと血が口からあふれてくる。ナイフを口から抜くと、彼女はあおむけに倒れた。

「照一君……ありがとう」

 最後の一言を吐いて、彼女は死んだ。


「萌ちゃん、今日は派手にやったな」

「……」

「あの二人見たか。吐き気がする。あーいうの大嫌いなんだよ」

「ちょっと、それはない! あの二人は本気で愛し合っていたのに、駅長のせいでその後が……」

「ん? 何、殺したのは萌じゃん」

 珍しく呼び捨てしてきた彼に、萌は激高した。

「駅長が命令したからでしょ!! あんたなんかサイコパスで死体を社長に献上して。ヒトとして最低最悪のゴミだろうが!! サイコなだけじゃなくって恋愛感情も分かんねぇのかよ!!」

 すると、新輝は珍しくおとなしくなった。

「聞いてくれるか、自分の過去のこと」

 新輝は語りだした。




 ***


 藤川新輝は活発な少年だった。

 だが、ある出来事が新輝の運命を変えた。

 ある駅のホームを歩いていた時だ。酔ったおっさんがぶつかってきた。それにムカついて、おっさんを蹴飛ばした。。すると、おっさんはバランスを崩してホームに落ちた。間もなく電車がやってきておっさんの命の灯は消えた……。


 警察はこの事件について大量の飲酒によって起きた事故だと判断した。新輝にはお咎め無しだった。


 それでも、新輝は怖くて逃亡した。

 ある日のことだった。男が新輝に近づいてきた。

「どうした? 君は誰だ。事情を教えてくれないかい」

 新輝は何の警戒も無くその男に事情を話した。

「そうか。良く分かった。私のところに来い」


 その男の手下となった新輝は、その男の夢を聞いた。

「私は、大きな富とパワーを得たい。人の力を知りたい」

 大きな夢だった。

「私は軽く三十人は殺した。それで、逃げた。そんな時に、似た事情の君に出会った。どうだ、一緒にやらないか」

「……やります!」

 不意打ちの告白にも、新輝はうなずいてしまった。


 そして、ある日。徳永電鉄株式会社で、男と新輝の考えた計画がついに実行された。

 静かに徳永電鉄は乗っ取られ、世間には一人の男によって買収された、と報道された。

 そして、新しい『株式会社百目鬼鉄道』を起こしたのだ。

 そして、男……鬼頭暗は、暗黒の仕事に浸っていった。


 ***




 新輝の過去。

 こんなにもつらい事故が。それがキッカケで鬼頭社長と会った。で、鬼頭社長の正体。全てが萌の心の中に闇をもらした。

「我が社では市民を殺害して、社長の目的を叶えることにつながる力をためているんだ。さらに、電車に乗っているだけでその人の力が吸われていく」

 で、その力が社長と新輝の闇の夢をかなえるエネルギーになると。

「許せん」

 その瞬間、萌の心に火が付いた。

「市民を軽んじるやつは大嫌い。以前、妖花から聞きました。この街の市民はパワーが吸い切られた人、ゾンビなんですってね。未来があった市民が百目鬼鉄道によって運命を変えられる。私はそれが許せない。あんたは地獄行きだ」

「ひっ」

 彼はもうイケメンでも恋人でも何でもない。ただの極悪非道な駅長だ。

「勘弁し……グアッ!」

 その瞬間、コウモリの面を付けた中年の駅員が新輝の胸を刺す。

 続いて、季実子が片手を切る。

「死ねぇぇぇっ!!!!」

 萌は我を見失って刺しまくった。足、手、腹、胸、首、顔。あちこちを力任せに刺していく。

「とどめだっ!!」

 萌はみぞおちに軍用ナイフを刺した。そして、骨切り包丁で首を落とした。

「死んだな。さっさと地獄で罰を受けろ!!」

 ハハハハハハハハハハハハ

 駅員の凶悪な笑いは、鮮血色に染まった駅で、いつまでも続いた。

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きさらぎ駅員の任務 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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