中編
萌は寂しいホームに転がる真っ赤な片腕をボーっと見ていた。
「駅長、こいつどうしましょう」
「う~ん、取り合えず首をとっておけ。んで、下はどうしようか」
「駅長、私が捌きます」
「おお、
どこか日常的なその会話に萌は身震いした。
「ええっと、
「了解で~す」
季実子はこの前仲良くなって、駅長以外で初めてできた仲間だ。その仲間が死骸についての仕事を喜んで受けている。
――この駅は一体、なんなんだ……。
萌は駅の木製ベンチに座って泣いていた。
目の前にはホームににじんだ血が広がっている。出来るだけそれを目に入れないようにしていたが……。
「飲むか」
貴公子の声が聞こえた。
「え、何を……えっ?」
目の前には新輝がワイングラスを持ってベンチに腰を下ろしていた。
――うわ、駅長が私の隣に座ってくれてる。
「これは、赤ワインですか?」
「ううん。赤ワインじゃなくって、鮮血」
「せ、せんけつ? 何ですかそれ」
ある程度、答えは分かっている。それでも、その不安を取り除きたい。まさか、私の予測があってるなんてことは……。
「え、鮮やかな血で鮮血。美味しいぜ。世界の色んな国でも血は結構飲まれるんだ」
「いや、そうじゃなくって。この血ってまさか」
「そうだ、さっきのやつ。ベンチの前に結構血がこぼれてるな。飲めるのに、もったいない」
もったいない?!
「プレゼントだよ。ちょっとだけ飲んでみな」
返事を待たずに、新輝は私の口に鮮血を押し込んだ。
「……!!」
いやなのに。飲み込んじゃった。
「オェェェ!!」
なぜか私は季実子の近くで仕事をさせられていた。
――次は、萌ちゃんにやってもらうからな。慣れたら大丈夫。楽しくなるさ。
で、訳が分からないまま新輝に季実子の隣に座らされ、季実子から仕事内容を聞かされた。
取り合えず、私は季実子に言われるがままに報告書を書き、妖花が捌いた死骸を段ボール箱に入れる。
「ひぃっ!!」
死骸がこっちを睨んだ気がする。殺された彼は悲しみと怒り、苦しみが混じった表情だ。
「大丈夫だって、死体は動かないよ」
そんなこと言っても、本当にそう見える。怨念がこもってる。
話は変わるが、新輝は死骸を百目鬼鉄道の社長、
なぜ、こんなものを鬼頭社長に送るのか。
「大丈夫だ、問題ない」
いや、ある。問題、しか、ない。
クタクタになりながら自室に帰ろうとした時だった。
死体を捌いた妖花がいた。妖花はどこか不気味な表情で聞いてきた。
「駅長って、誰かの恨みを買って殺されると思う?」
いきなりなんだろ、物騒な。
まあ、新輝ならいくらでも恨まれるだろうが、さすがに……。
少し考えて、答えないでいると、妖花は、
「分かんない? そう」
といって、自室に走っていった。
次の日の朝。
電車が入線してきた。もし客が降りてきたらどうしよう。降りてきたら、私がさせられるかもしれない。あのおぞましい殺害を。
「ここだろ。きさらぎ駅って」
「ゾクゾクするな」
降りてきた。しかも、二人。
「来た。よし、季実子と萌ちゃん、行け」
「萌ちゃん、やるのよ。これも立派な仕事だからね。はい、これがあなたのナイフとお面」
季実子は私に骸骨のお面と骨切り包丁を渡してきた。
「え……」
「ほら、さっさと行くよ!」
季実子に引っ張られ、私は渋々面をして客の方へ忍び寄る。どうせ嫌がっても、最終的にはやらされる。
「あの、すみません……」
季実子がまず二人に声をかける。
「ん? あんた誰。なんかキモイ」
季実子は簡単にブチギレた。
「はぁ?!」
季実子はキモイと言った男を斧でどつく。簡単に足をほとんど切断した。そして、季実子はターゲットの首を切った。
ジャバジャバジャバジャバ
「「ヒィィィィィィィ!!!!」」
もう一人の男と私が声を重ねて叫ぶ。線路に驚きに満ち溢れる首が落ちて行った。
「次はお前だ……」
「え、やめてくれ。頼む、撮影なんかしないから。この通りだ!!」
もう一人の男は怖くなったのか、顔面蒼白で土下座してきた。
「萌、やっちゃって」
「無理です」
「早くやれ。やらないとあんたの首が飛ぶよ?」
どうしてもやろうとしない私に、骸骨の面をかぶった季実子が斧を当てた。
さすがの私でも命は捨てられなかった。
「イヤァァァァァ!!!!」
悲鳴に近い声を出しながら、私は骨切り包丁を土下座している男の首に当て、一気に振り下ろした。
ズバッ……ジョボジョボジョボジョボ……ゴロゴロゴロゴロ
「くそっ……」
もう一人の男の首はホームに落ちた。おびただしい量の血を出しながら、最後に苦しみと怒りが満ち溢れた捨て台詞を吐いて、ホームから消えた。
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