第10話 妻の襲撃

 珍しく部屋の電話が鳴った。1階の受付からだった。

「大杉さん、奥さんがみえてるそうや」

 大杉が立ち上がって出入り口の扉を開けると同時に、ベビーカーを押す大杉の奥さんが部屋に入って来た。片手にはスマホを握っている。

「どうした、空に何かあったのか?」

 大杉はベビーカーの中の生後間もない息子に目をやった。

「最近、帰りが遅いから変だなと思って、そしたら、これ、これは何?」

 いつもは上品そうにしている大杉の奥さんの声が裏返っている。

「いや、そ、それは、ともかく外に出よう、みんなに迷惑だし」

 顔面蒼白な大杉はベビーカーを外に押し出そうとした。

「この女ね、うちの亭主を寝取ったのは」

 すぐ間近のデスクで半笑いする栗田結衣に、今にも掴みかかろうとした。

 大杉は慌てて妻の両腕を掴んで、やっとのことで外に連れ出した。

 気の毒に、大杉の奴。そやけど何で写真を撮らせたたんや。アホやなあ。

 へたしたら、ここにミカが乗り込んで来ていたかもしれへん。

 ああ、おとろしい。遼平は胸を撫で下ろした。

 スマホを見なくても、どういう写真かは見当がつく。

 人の物を取る癖がある。こういう意味やったんか。

 栗田は席に座り、何事もなかったかのように、会議の資料をホッチキスで留めている。落ち着いたもんや。これが初めてではあらへんな。

 そやけど、大杉と栗田には何の接点もなかったはずや。

 それにしても、あの証拠写真はどこから出てきたんや。

 またしても、栗田が放った言葉が蘇った、

「結衣ね、人のものを取る癖があるんです」

 


 

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