第11話 ターゲット
「あれ、ミカ、俺の弁当は?」
「もう作らへんから、また外で食べて。来月分のお小遣い、財布に入れといたから」
「おお、そうか、サンキュー」
「万が一のために、財布に入れておいた1万円、使わへんかったんやね」
「お守りにしようと思て、大事にしとったんや」
それにはミカは何も言わなかった。
何かミカ、機嫌が悪い。俺、何かした?
勇気を幼稚園の前でおろし、車の中で財布の中を確認した。
予備に入れておいてくれた一万円は小遣いから差し引かれてあった。
2日ほど前のこと。
「栗田君、電話があったら伝えてくれないと困るよ。鈴木建設の常務が携帯を家に忘れて、ここにかけてきたって言うじゃないか。君はそんなことも出来ないのか。ウチの孫の小学4年生でも出来ることが出来ないのかね。困ったもんだ……。」
室長の注意は執拗に続いた。
そのあと席を外した栗田のデスクに近付くと「すずきけんせつ」とメモ書きが遺されている。ここまでしていて、カメレオンどうして。遼平が密かにつけた栗田の仇名だ。
あのとき、たぶん鈴木建設の常務と、すごく楽しそうに会話しているのを遼平は耳にしていた。その後、外から帰った大杉にコピーを頼まれて、それで忘れてしまったのか。
室長に叱られた栗田が階段の踊り場で泣いていたというのを大杉から聞いた。
大の大人がそんな人目につく所で泣くやろか。そこはトイレに行くときも、エレベーターに乗るときも通る所だった。
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