第8話 栗田結衣の影
「パパ、お弁当箱洗ってきてくれたん? あら、お箸も」
「う、うん」
缶ビールを片手にキハダマグロの刺身をつつく遼平は、栗田結衣のことをなぜか言い出せずにいた。弁当箱を洗ってくれたのも彼女だった。
「パパ、卵焼きはどうやった」
卵焼きは栗田結衣に取られて食べてへん。
結衣、人のものを取る癖があるんです。その言葉がリフレインして、何度も遼平の頭の中を流れた。少し遅れて言った。
「うん、美味かったよ」
「そうやのうて、甘くなかった? 勇気に合わせて作っているから」
「うん、勇気に合わせてくれたらええから」
ミカは流しから離れて、タオルで手を拭きながらダイニングテーブルに近付いた。
「パパ、疲れてるん? 何やさっきから上の空やで」
「ごめん、仕事のこと考えとった」
「家で仕事のこと考えるやなんて珍しいね」
2階からパジャマ姿の勇気が下りてきた。
「パパ、お帰り」
後を振り返った遼平。
「ただいま、ユウ」
「あのね、僕ね、今日幼稚園で」
「ユウ、パパ、お仕事で疲れているから、また明日にしよう」
ミカに遮られ、勇気はトイレに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます