世界にゲームが降って来た、そして俺は麻雀を選んだ。

戸川 八雲

第1話 世界にゲームが降って来た

 その日世界にゲームが降って来た。

 うん、何を言っているか俺にもよく分からん。

 日々勉学に励んでいた学生の俺の前に急に現れたメニュー画面、これはチート来たぁ! なんて思ったが、周りにいる人間全てに同じ物が現れたらしい、あ、はい。


 それは高校二年の春の事だ、通学中にいきなり目の前にメニューが現れた。

 これはまさか噂に聞くチートでは? と喜んだのもつかの間、その時は電車に乗っていたのだけど周りにいる人達すべてが困惑しているのが分かった。


 目の前の何もない空間に手を出して何かに触ろうとしている人がいたり、独り言で『俺、ゲームのやり過ぎか?』なんて言っているサラリーマンっぽい男の人もいる。

 うん、チートではなく世界に不思議現象が降りて来たんだと思う。

 しかしこれ、何かを運転中の人とかに来たらやばくねぇ?


 電車の運転手がヘマしない事を祈りつつメニューを見る。

 シンプルな構成でタッチパネル式を思わせるそれには、様々なゲームジャンルのボタンがあった。

 文字だけのボタンとか今時こんなのじゃ売れねーよなぁと思いつつ、麻雀のボタンを取り合えず押した俺。

 だって最近ネット麻雀に嵌っててさぁ、世界中の人と対戦出来るのが楽しくて楽しくて。


 高校でも麻雀部がないか探しちゃったくらいだよ。

 まぁそんな物はなかったんだけどもね。

 まぁいいや画面に戻ろう。


 麻雀と書いてあるボタンを押すと麻雀牌が並んだゲーム画面のような物が見える。

 こんな大がかりな事をしでかしておいて、ただのゲームのメニューでしたって、意味が分からん。

 でもまぁ、小説やアニメだとゲームの能力が手に入ったりするんだろ?

 そしてなんらかの敵に世界が侵略されたりとかさ。


 つまり、残念だが麻雀は諦めてRPGかSLGあたりを選ぶのが鉄板かなぁ……。

 俺はそう思いつつ画面をトップに戻すボタンを……戻すボタンを……戻るボタンっぽい物がない!

 ホームボタンっぽい物もない。


 並べられた麻雀牌の中央部分にあるゲームスタート以外の部分の何処を押しても反応しない。

 え? これやばくねぇ?


 落ち着け……ちらっと電車内の周囲を見ると、ちょっとしたパニック状態だ。

 そりゃこんなメニューが見えたらなぁ……俺は小さい声で『メニュー』や『ホーム画面』と呟いてみた。

 小さい声で言ったにもかかわらず周りの人間に、こいつ何言ってんだ的な目で見られたのが悲しかった。


 だが近くにいたゲームのやり過ぎサラリーマンは、ハッとした表情を見せて俺と同じように『メニュー』と呟いた。

 ちなみに『メニュー』発言をしたらメニューが消えて、もっかい言うとメニューが空中に出てきた。

 でもトップ画面はゲームの選択画面じゃなく麻雀画面だったけどね!


 『ホーム画面』って呟いても同じ現象ってことは、言葉より画面をどうにか出したいという意思が大事なのかもしれないけど。

 電車内にメニューメニューと色んな人の小さな声が響く……ちょっと怖い。


 ゲームやり過ぎサラリーマンは俺に向かってグッドマークを見せてきたので、軽く頷いておいた。

 さすがに公衆の面前でグッドマークを相手に向けて出すのは恥ずかしいよね?


 はぁ……俺は麻雀かぁ……どうすんだよこれ……取り敢えず学校に行く事にした。


 非常時でも日常を過ごそうとするのは人間の性だよね。

 でもさ、実際こんな事が起きたとして、何が正しい行動でどんな行動が自分を救うのかなんて判断できないだろ?

 だから俺は学校に行く。

 けど、化け物とか魔物やロボットなんかが日常に現れる可能性はあると思っておこう。

 小説やアニメだと大概ゴブリンとかスライムが最初に出て来るんだが……


 携帯端末で調べてもメニューの事はニュースとして出て来るが、化け物の話とかは一切ない。

 どうやら何かに集中している人間にはメニューが出ないらしい。

 そして休憩時とかに出るとかなんとか……そんな訳で、今の所事故とかも報道されてないっぽい。

 親切設計か?


 後は十三歳未満の子供にもメニューは出ていないっぽい……謎いけど……アニメやファンタジー的な思考だと……成人とみなされるのがそれくらいって事とか?


 ……。


 学校についた俺、当然の如く周りではメニューの話でいっぱいだ。

 友達同士でワイワイと、やれキャラが自分だったとかガチャがどうだとかレベルがどうたら聞こえてくる。


 皆楽しそうだね。

 ……俺? 俺は勿論学校に友達なんていねーから会話なんかしないですよ。

 べつに虐められている訳でもないし、周りから見た俺はいてもいなくても良い男子程度の認識だと思う。

 いいんだよ、俺にはネットに仲間がいるからさ。

 そして先生が来て……え、休校だってさ……登校した意味ないじゃんか。


 残念、こっそり周囲の会話を盗み聞きして、他のゲームの情報収集してたんだけどなぁ……生の情報も聞いておきたかったんだが。

 仕方ないので家に帰りつつ携帯端末を使い、ネットの海で情報収集。


 すでに何個も情報纏めサイトが立ち上がり、動画投稿サイトには似たような見出しで色々出ている、はえーよなぁ……。

 どうにもメニュー画面の最初の方にあったRPGやサバイバル系のサンドボックスゲームを選んだというか適当に押して戻れなくなった人が多いっぽい。


 RPGもサンドボックスゲームも、開始すると自分が主人公のゲームが始まってレベルを上げたり何かを作ったりするみたいだが……正直すっごいつまらないゲームだと自称ゲーマー達は言っている。

 麻雀もシンプルな画面だったしな……ある程度画面内が派手じゃないとゲームも売れない時代だよね。


 そして『メニュー』やら『ホーム画面』に似た言葉でメニューを出したり消したりする事が知れ渡ると、世間は驚くほどの速さで元に戻った。

 ……普通こんな事があればもっと騒ぎになると思うんだが……。

 思考にバイアスがかかっているという意見も出てたけど……まいいか。


 一部のそういうお話が好きな人らは、レベルを上げたりしてつまらんゲームを進めているらしい。

 俺も家に帰って麻雀をやってみる事にした。

 ちなみに家にいる母親はレースゲーを選んだらしい。


 うちの両親はゲーマーだからな……俺と会話中も遊んでいると言っているのだが、正直意味が分からん。

 ……取り敢えず早めのお昼ご飯を食べようぜ母さん……俺も作るの手伝うからさ。

 お昼には1時間くらい早かったが、早く誰にも邪魔されずにメニューの検証をしたいのでしょうがない。


 母親の分まで俺がお昼ご飯を作り、二人で食べると自分の部屋に戻る。

 さすがに使った食器の洗い物は母親がやってくれる。


 普段俺や父親がいない平日のお昼ご飯は適当に済ませるから、ちゃんとご飯を作る習慣がないらしい……専業主婦ってこんな物なの?


 自分のベッドに寝転がるとメニューを開く。

 そして空中に浮かぶ麻雀のスタートボタンを押してみる。


 すると意識が二つに分かたれたのが理解出来る。


 うへぁ……ベッドの上にいる俺と、麻雀ゲームの世界に取り込まれた俺が同時に存在しているのが分かる。

 これ気持ち悪いなぁ……と思ったら、もう一人の自分との繋がりが遠く感じられる設定に変わった……設定を思考制御出来るっぽい……。


 今は麻雀ゲームの中にいる俺を主観意識としている。

 技術なのか魔法なのかは知らんが、これはすごいな。

 そして改めてゲームの中の俺が目の前を見る。


 そこには麻雀の雀卓に座る俺と、残り三人が真っ黒い幽霊のような者達がそれぞれ座っている。

 彼ら? 彼女ら? は、シルエット的に人の形をしているが体も顔も黒一色で、その黒い顔の中央に『NPC』と文字が書いてあるだけだ。


 それ以外の空間は薄暗く卓の周辺だけが明るい。

 せめて対戦相手は可愛いキャラとかにすりゃいいのに……こんなソシャゲが世に出たら三日でサービス終了だろな。


 他に何か情報はと思うと、自分と相手の点数なんかが空中に浮かび上がる。

 お互いが二万五千点持ちでスタートか……。

 ヘルプとかない? と思考してみたが何も出てこず。


 じゃぁ麻雀のルールは? と思考すると、簡単なルールが表示された物が空中に出てきた。

 俺の良く知っている日本のリーチ麻雀だな。


 競技ルールというよりはエンタメっぽく、赤やカンドラや裏ドラありの……もしかして俺の記憶を元にしている?

 いや、日本人の意識を元に……今はそっちの検証はしなくていいか。


 取り敢えずやってみるか……一応ネットでは死人が出たって話は聞かないしな。

 ゲームスタート

 ……。

 ……。


 うーん、俺はそんなに麻雀が上手い方じゃないと胸を張って言える。

 だってネット麻雀だと、累積の成績は中の下って所だもの。

 麻雀はエンジョイ勢だしな俺。


 そんな俺なんだけど一応勝てる。


 というかこいつらめっちゃ手なりというか……役を一切考慮する事なく打って来るから、ドラやらリーチ一発ツモやらの運以外で手が高くなる事がなさそう。


 終わった後の牌譜すら確認出来ないクソ仕様だけれども、『NPC』が役牌のみの手であがった時に相手の捨て牌を見ると……混一色ホンイツ余裕で出来るじゃんそれ、みたいな事が何度もあった。


 しかもこちらのリーチに対して、何の警戒もなく安牌でもないドラを一発目から切ってきたりする。

 なので普段はしないドラマチック単騎リーチとかがめっちゃ刺さる。

 いや、いいのかこれ?


 早めのお昼ご飯から夕ご飯の支度前までで、計10半荘出来た。

 ちなみに飛びで終わるルールだった。


 一位が9回、二位が1回、3位0回、4位0回だったよ。


 ……いや普段やっているネット麻雀なら2-2-3-3みたいな順位になるんだが……なんでかって言うと俺の開始点数がおかしい。


 開始時に二万五千点配られて最初に二位取った後に、その点数が俺に配られた。


 説明が難しいが、毎回やるゲームとは別に俺の持ち点のような物が存在していて、その点数を次のゲーム開始時に使えちゃうんだ。

 ……つまり最初から点数が高い状況で勝負出来ちゃうようになった。


 そこからは全持ち点数を初期に追加してやったよ……。


 つまり二回目のプレイでは初期点数の二万五千に一回目の2位で獲得した二万点そこそこを足して所持点数四万五千点以上で開始出来ちゃった訳。


 なので今は俺が勝ち続けている、てかこれ最初に飛んで終わったらどうなってたんだろ?


 しかも半荘でトップを取ると、自分であがった点数だけでなく、オカが余計に入るから……もうこれは、やればやるほど手持ちの点数が上がっていくだけなのでは?


 実際は相手の運の良さで高い手をあがられて、普通なら負けている状況でもトップが取れちゃうからなぁ……。


 すでに二十万点以上の累積点数を持っている。

 ダブル役満を親に振り込みでもしない限り負けないよねこれ。


 『NPC』の親に役無しリーチ一発ツモ表ドラ3裏ドラ3とかあがられた時も、俺の初期持ち点がすでに7万点を超えてたからトップ取れたし。


 取り敢えず麻雀をやめて現実世界に戻って来ると、分かたれた意識が融合した。

 現実世界にいた俺は意識が分かたれた事を理解すると、暇つぶしにネットで情報収集していたっぽい。

 その時の知識はすでに全て持っている状態だ。


 その知識によると慣れれば意識を分けずに現実の生活とゲームが同時に出来るとか……料理しながら電話しつつさらに動画を見るみたいな事か?


 その情報通りに意識を分けない事を考えつつ麻雀を始めると……うん、出来るねこれ。

 なんだろう……並列意識というか、繋がっているのに分かれているというか……ちょっと最初は気持ち悪いけど慣れればまぁ……母親が言っていた、会話しつつレースゲーを遊んでいるってこういう事かもな。

 つーか、この不思議現象への母親の適応速度が、若い俺より早くねぇか?


 一階のリビングに降りて会話しながら母親の料理作りを手伝った。

 なんでお昼ご飯も夜ご飯も俺が手伝うのか?

 それはね、手伝わないと毎日カレーになるからだよ。


 母親本人曰く、同じ具材じゃないからおっけーらしい。

 キーマカレーに野菜カレーにシーフードカレー、そりゃね、毎回中身も風味も違うけどさぁ……。


 うちの台所の戸棚にはスパイスがずらっと並んでいる。

 レトルトじゃないんだよ……レトルトだったら手抜きって文句も言えるんだけどさ!


 なので今日はたっぷり野菜と豚バラのお鍋。


 たまには昆布のだし汁を使った和風な味でおなしゃーす。

 母親にまかせると、この鍋もカレー鍋になってしまうので注意だ!

 うちの父親も俺の奮闘には期待しているからね。


 具体的にはカレーを阻止した回数でお小遣いにボーナスが付く。


 そうして帰宅した父親と母親と三人でご飯を食べる。

 雑談の内容はやっぱり不思議メニューの話。


 父親が選んだのはサンドボックス系RPGらしい。

 今は延々と素材を収集したりしているとかなんとかで、父親はこの手の終わらないゲームが大好きな人だ。


 俺が麻雀のおかしなルールを話すと、母親もレースでNPCに勝つとタイム差が累積されていっているとか言い出し、父親はゲーム内で獲得したアイテムが、最初から無限に保持出来るのはクソゲー感があると言い出した。


 ネットの情報でも、ゲーム内容がイージー過ぎておかしいって話が出てきているしな。

 ゲームに興味がない人は、そもそも適当に選んでからメニューを消して、それからはまったく手をつけてないなんて話もある。

 学校も明日から再開だってさ……社会が謎現象に適応するの早すぎじゃね?


 そうして俺や両親は、楽しく会話をしながら夕飯を食うのであった。

 三人共、裏の意識でゲームをしながら、ね。

 ……。

 ……。


 あくる日、学校に着いた俺は普通に授業を受ける。

 周りの生徒も授業中は大人しい、そして……それは起こる。


 窓の外、誰かの悲鳴が聞こえるとともに、世界がずれたのを感じる。

 ああやっぱり来たか、という雰囲気がクラスの半分くらいにある。


 俺は窓際だったので、校庭で体育の授業をしていたであろう生徒達を見ると。

 そこには化け物がいた。


 悲鳴をあげて逃げる女生徒をかばうように男子生徒が化け物の前に飛び出して……。

 ん? 化け物が消えていった。


 何をしたんだあれ……そして校内からも聞こえてくる、ギャーギャーという人ではない者の声。


 そしてクラスの教室の扉が開く音が響き、そこにはゴブリンと呼びたくなるような化け物が、廊下側の席に座っていたクラスメイトに次々と襲い掛か……ゴブリンが消えていった……何?


 そして俺の頭の中が急激に冷めて…………クラスメイトの席がいくつか空いている事に、そして今日通学してきた時に電車内がいつもよりほんの少し空いていた事に……。


 ああそうか、ゲームでHPや点数やらポイントがなくなると……存在が消されるんだな……何故今まで気付かなかったのかは分からない。

 俺と同じようにそれを理解したのか、皆がパニックになっている。


 そして教室になだれ込む化け物達。


 先程とは違う生徒に襲い掛かったゴブリン、そしてゴブリンに殴られた生徒は消えていった……どういう事だよくそ!

 クラスメイト達の悲鳴が聞こえる中、消えた生徒の情報はもう俺の頭に浮かばないが、消えた事は理解できる。

 つまり化け物は俺達の存在を消す力があるって事か?


 こんな事を考えても、じゃぁどうしたらいいかなんて俺には判断できない。

 ただ椅子から立ち上がって体が固まってしまっている。

 映画やなんかで、危機が来るとスパッと動ける主人公とかにはなれそうもない。


 そしてゴブリンの一団が教室に入り、次々と生徒を……魔物が消える方が多い?

 っと俺の方にもきた! どうやったら消せるんだよ!


 ……。


 俺の目の前にメニューが出てきた。

 そして麻雀画面のスタートボタンが点滅し、世界がスローになっているのが分かる。

 こんな状況で麻雀画面が出てくる? 体は動かないけど考える事は出来るようだ。


 化け物に殴られたら消えていった生徒、そしてこのメニュー……そういう事なの?


 どうせ触られたら終わるっぽいし、自分の体は動かせない、というか外の世界がスローだか停止しているからなんだろうけども……。

 俺は麻雀をスタートさせると強く強く意識した。


 ……。


 いつもの麻雀をする場所に意識がやってきた。

 実は裏の意識でずっとNPC相手に麻雀していたのだが、このゲームを開始した事で途中までやっていた麻雀が中断された。

 そして今、俺の前には俺に襲い掛かってきたゴブリンが雀卓に座っている。


 すでに麻雀牌も配られていて、左右には『NPC』がいない、つまり二人麻雀だ。


 動画サイトで昔のゲームでこんなのがあったってのを見た事あるな……。

 ルールを確認したいと考えると空中に映された。


 三人麻雀をさらに一人減らした感じで、だけどツモなのにロンと同じ点数に……ふむふむ。


 そしていまだに牌を切らないゴブリン、あいつが親なのにな。


 このゲームは一応時間制限があって、一打ごとに3秒と、一局ごとに180秒の所持時間がある。

 ……長い3分が過ぎた。


 周りが暗く醜悪なゴブリンと向かい合うように卓を囲む、それだけの世界。

 現実世界はどうなっているのだろうか?

 予想ではこのゲーム世界とは時間が同期していないとは思うんだが。


 時間切れで自摸切りになったのだろう、ゴブリンが牌を河に捨てたって……ドラ役牌?

 丁度俺の手牌の中にドラ役牌のトイツがあったのでポンっと鳴いた。


 その後もゴブリンはギャーギャーうるさく喚くだけで、時間切れでツモ切りを繰り返す。

 あー……麻雀のルールを理解出来ないっぽいね……そりゃなぁ……。


「ロンッ」

「ぎゃ?」


 何故か最初から少なかったゴブリンの点数を飛ばして俺が勝利した。

 すると意識が現実に戻り、俺を襲おうと目の前にいたゴブリンが消えていった。


 ざわざわとクラスメイト達のしている会話を聞くに、RPGならコマンド戦闘、アクションなら普通に戦闘が、音ゲーでもレースゲーでも魔物相手に戦って勝ったら現実に戻ってきたみたい。


 だが……複数人のクラスメイトは席から消えていて、彼ら彼女らの名前も顔も思い浮かばない……。

 どうやら俺は、ルールの変わったこの異常な世界で麻雀を武器に生きていかないといけなくなったらしい。

 これからの生活は大変な物になるな……。


 ……。

 ……。


 なんて思っていた時期がありました。


「ロンッ! 跳満ハネマン

「ぎゃぉぉぉぉぉ!!!!」

 現実世界に意識が戻ると、ドラゴンが咆哮を轟かせながら消えていった。


 俺はその勝負で勝った点数をメニューで確認すると、メニューからショップを開いてお肉と入力、色々出て来た中でそこそこのお肉に交換して家に帰った。


 ……。


「ただいま母さん、野良ドラゴンが表にいたから掃除しといたよ、ポイントすごかったんで良いお肉と交換しちゃった、これ使ってね」

「お帰り、あらまぁドラゴンなら母さんがやりたかったわねぇ、強いとポイントの獲得倍率がすごいのよ、このお肉ならあのスパイスが合うかもね! 今日は期待しててね~」


 母さんが俺から受け取った高級肉を使いカレーを作り始めながら呑気な声を上げる。


 そう、世界は変革した。


 変革したが……魔物を倒した者のメニューにはポイントショップなる物が出現して、俺なら麻雀の点数をポイントに、母さんならレースで獲得した累積差分タイムをポイントにして買い物が出来るようになっていた。


「手がない魔物は車のレースとかまともに出来ないもんね……」

「そうなのよねぇ……逆に頭の良い人型とかだと油断ならないから気をつけないとなんだけども」


 魔物はゲームのルール上で俺達と戦う事を強いられている。

 人間側がゲームを開始しないと、そのまま魔物に倒されて消えてしまうと予想されているけど、本当かどうかは確認が出来ない……。

 そんな感じなので、うちの家族で一番苦労しているのが父親だ。


 サンドボックスRPGなので敵とガチで戦う必要がある。

 自身のフィールドに砦を作って頑張ってはいるけど、相手がドラゴンとかだと資源の消費がすごくて割に合わないってグチってたっけか。


 俺の麻雀の場合、ゴブリン相手なら奴らの初期持ち点が三千点とかで、今回のドラゴンだと40万点とかなんだけども……すでに俺のプールされた持ち点が億を超えてるからなぁ……。


 それでもいつか邪神とか出てくるかもだし、今も常にポイントを増やすべく、もう一人の俺が裏の意識でNPCとの対戦を頑張っている。


 魔物相手だと初期の二万五千点は配られない。

 あれは『NPC』相手の時だけのシステムだったようだ。

 このメニューを管理している存在からの温情を感じる仕様だね。


 まぁその代わりに『NPC』相手の時と違って、魔物相手にトップを取ると相手の点数が全て貰えるというシステムだった。

 なのでゴブリン相手はすぐ終わってしまって、あんまり美味しくない。


 まぁあいつらアホだから、時間切れでツモ切りとか良くあるので、確実にプラスにはなるんだけども。

 そういう意味でドラゴンとかは超美味い。

 一局で『NPC』相手の十数回分の稼ぎがある。


 母さんは元々ネットのレースゲーで世界記録を出した事もあるガチ勢なので、まず負ける事がない。

 それに手持ちの累積差分タイムを使う事で、俺の麻雀と同じようにハンデを貰った状態で戦えるらしいしね。


 一番苦労したのはあれかなぁ、少し前に襲われた黒騎士とかなんとかいう、会話の出来るダークエルフっぽい騎士かな。

 相手の手持ちが二十万点もあって、麻雀のルールも即覚えちゃって……。


 結局半荘終わる頃には相手の持ち点が七十万点超えてたんだよね。

 何回連荘するんだよアホが、という状況だった。


 まぁその時は俺の持ち点が五千万点くらいあったから助かったけど。


 そんな訳で世界は変革したけど、俺も家族も元気に暮らしています。

 こんな世界だが、学校とかも普通にやっているんだよね……人間ってのは逞しいなぁと思った。


 そんでRPGやSLGを選んでまともにレベリングしてなかった人達とかは消えていった……と思われる。

 具体的な記憶や記録が残らなくなるから予想でしかないんだけどね……。


 それと、クイズゲーとかだと、魔物の世界の問題が出てびびったって話も聞く。

 俺は麻雀で良かったのかもな。


 ただし、いつか幸運値が振り切れた魔物とかが出て来るかもしれないとは思っていて……あの黒騎士も怪しかったしな……天和テンホーを連発するような、そんな相手が……出て来たら……。


 まぁそんな時は『チートかよボケ!』とかなんとか捨て台詞を残して、この世界から消えていく事にしよう。


 それまではこのおかしな世界で生きていくさ……。

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