第10話 ゲーミング大会
俺の目の前に設置されたパソコンの画面に、負けを意味する言葉が映し出される。
「あーすみません、やられちゃいました」
「頑張った方だってばジャン君、私達なんて最初の方に負けて後は応援しているだけだったからね」
「そうですよジャン先輩、七十五人中五位なら十分です」
「もうちょっといけそうな気もしたんですけどね、ミスっちゃいました」
今俺はGWに開催されている、国が主導する高校生ゲーミング大会に出場している。
夏の全国大会に向けてノウハウの経験を積むべく、地区ごとに小さな大会を開いてみるというやつで、俺達の地区の高校二十校が集まっている。
一つの高校につき四人のメンバーのはずが、うちは俺と会長と連ちゃんの三人だけで参加していて、他にもそうやってちょっと人数の少ない高校なんかもある。
今はTPSの多人数参加型ゲームでの勝負に決着がついた所だ。
このゲームはたまに両親に強制的にチームメンバーに駆り出されるので、それなりにやった事はあったんだけどねぇ。
俺は麻雀みたいな飲み食いしながらやれるゲームが好きなんだよね。
反射神経使うゲームは集中しないといけないからな、ポテチ食いながらとかが無理なのがね……。
「にしてもジャン君ってば一人であれだけいけるなら、あの謎現象で麻雀よりそっち系のゲームを選べば良かったんじゃ?」
「私もそう思いました! ジャン先輩一人で四人いた相手チームを全員倒した場面とかすごかったです!」
「あー……TPSは脳が疲れるんすよね……アクションゲーは集中しすぎちゃうとゲームの中に入る感覚になっちゃって……めっちゃ疲れるんです……麻雀も頭は使うけど、途中で水飲んだりできますから」
ゾーンっていうの? アクションゲーとかやっていると勝手にそれに入っちゃう事があってな。
……両親は羨ましいって言うんだけど、あれって終わった後にすっごい疲れるんだよね……。
「集中してゲームの中にって……ジャン君……それって実はすごい才能なのでは?」
「お姉ちゃんの言う通りすごいですジャン先輩……」
「いやいや二人共、あんなの疲れるだけですってば、それに敵が五十人とか百人いるとトップ取るのが大変なんですよ、麻雀なら三人とか四人が相手だから勝ち易いでしょう?」
「……ジャン君の麻雀での勝率を考えると……」
「ちなみにその百人相手の戦いで、ジャン先輩はどれくらいの確率でトップを取れるんですか?」
勝率? んー親とペアでやった時のデータしかないけど……。
「ペア五十組で百人参加の戦闘で……十回に三回くらいかなぁ?」
ゴブリン相手の麻雀なら100%勝てる訳だし、やっぱ麻雀が楽だわ。
会長が何故か連ちゃんを連れて俺から少し離れていった。
女子同士の内緒話をするっぽくて、レンちゃんの耳に手をあててコソコソ話している。
『ジャン君は絶対に才能を使う方向性を間違っているわよねレンちゃん』
『四十九組を相手に3割の勝率を出すジャン先輩ってすごいよねお姉ちゃん』
二人がコソコソ話しているが、さて、次は俺の好きな麻雀対戦だ。
ふふーり、最近ずっと連ちゃんと謎空間で麻雀しているからな、きっと強くなっているはずだ。
……。
……。
――
ショボーン……。
歩みを進める足に力が入らない。
……なんで俺がリーチすると、次のツモで他の人の危険牌をツモるのかなぁ……。
「元気出しなさいってジャン君、ほら、うちの高校はメンバーが一人少ないのに全体で三位だったのよ? 胸を張りなさいってば」
今はゲーム会場から帰宅するために駅まで歩いていて、そんな俺の右腕と組んで歩いている会長がそうやって励ましてくれる。
その四位って連ちゃんが麻雀で二位取って、会長がカード対戦で三位取ったからじゃないですか……俺? 俺はTPSでちょこっと五位を取れたくらいです。
「そうですよジャン先輩、元気出してください、優勝は出来なかったけど楽しかったじゃないですか、こう、青春って感じで!」
そう言って連ちゃんは俺の左腕に組み付いてくる。
あ、ポヨって感触がきた、嬉しい。
「そうだな、まぁ確かに高校の部活で大会に出るって感じの青春は味わえたかもな……さすが連ちゃんだ、ちょっと元気出たよ」
「そうそう、彼女と一緒に高校生の大会に出るなんて良い思い出じゃないの、なんなら帰りにお泊まりをして違う思い出を作ってもいいのよ?」
「お姉ちゃん? 私とジャン先輩の予定を崩した事、忘れてないよね? 明日は二人で動物園に行くのでまっすぐ帰宅です!」
連ちゃんとの約束はこの大会のせいでご破算になったと思ってたんだが……そうか、まだ行く気だったのかぁ……。
ちょっとおでかけ資金用に、謎メニューの麻雀ポイントを『白銀』と交換して換金しとかんとな……。
はぁ……GW前に有名RPGゲーの大作が出たから、GW期間中はずっとそれをやろうと思っていたんだけどな……。
「ぬぬ……今回の大会で有耶無耶に出来るかと思ったのに……いいでしょう、それなら私も一緒に行くから!」
「ええ? また付いて来るつもりなの? お姉ちゃんってば……過保護なんだから……」
またマスクにバッテン刺繍がされた奴を着けてくるのだろうか……カラオケボックスでも会長は言葉を発せないからマラカス振ってただけだし……それでもいいのかね会長は。
「そもそもジャン君は恋人である私の物なんだからね? 連ちゃんってば既成事実重ねて奪おうとしてない?」
俺は別に会長の恋人じゃないんだけどなぁ……。
歩きつつ俺の両腕を、会長と連ちゃんのお互いが両腕で抱きしめるように持ちながら会話している二人、これが結構目立つというか……横幅が広くなるので歩行者の迷惑なんだよな……。
「ジャン先輩から恋人じゃないって聞きました、それにジャン先輩も私とお出かけするの楽しかったですよねぇ?」
ん? この前のお出かけか、あの麻雀教室は楽しかったよなぁ……。
「そうだなぁ……あの教室にはまた行きたいよな……」
「ほら! ジャン先輩も楽しかったって言っているし問題なしだよお姉ちゃん」
「ジャン君は麻雀教室が楽しかったんであって、別にレンちゃんと一緒でなくても良かったとも聞こえるんだけど」
ああ……うん、そういう側面がなかったとは言えないが……。
「そんな事はありません! ねぇジャン先輩? 私と一緒の方が教室に行きやすかったですよね?」
あー、一人よりは知り合いと行く方がいいよな、ああいう場所って。
「そうだな連ちゃん、あーいう場所は知り合いと一緒がいいよな」
「ほらお姉ちゃん、私と一緒が良いって言ってるよ」
「私にはまったく違うように聞こえているのだけど……レンちゃんって意外に男が絡むと狡猾になるのね……私知らなかったわ……」
なんとなく真面目に聞くと怖いので、二人の会話は半分くらい自己暗示でミュートをかけていこうと思う。
早く駅につかないかなぁ……すれ違う人にすっごい凝視されてるんだよなぁ……。
「だーからーお姉ちゃんは――」
「勿論勝負の結果は――」
「それなら――」
「マスクすれば――」
「お姉ちゃんはすぐエッチな――」
「鎖骨がセクシーなんだから――」
「ジャン先輩は匂いだって――」
「否定はしないけど――」
「それならやっぱり――」
「仕方ないわね――」
はー今日もいい天気でよかったなぁ……すれ違う人達の何だこいつらという目が痛い……。
というか同じゲーミング大会に参加していた高校生達も俺達と同じ方向の駅に向かって歩く人が多いので……俺達三人は学生らにすっごい見られている。
二人共美人だしなぁ……その二人と腕を組んで歩く俺……どういう噂になるのやら……。
まぁ今以上に悪くなる事はあるまいて。
「という事になりますけどジャン先輩はおっけーですか?」
「てな訳なんだけどもジャン君もいいわよね?」
「ああはい」
ん? しまった、なんとなく他の事を考えていて、適当な返事をしてしまった。
「えっとごめん二人共、良く聞いて無かったからもう一度――」
「お姉ちゃんが泣いてお願いするから仕方なくなんだからね?」
「泣いてないわよ、これは恋人としての正当な要求であって――」
えっと、俺の質問はスルーされて、また二人でワイワイと会話を初めてしまった……。
あー何処に遊びにいくとかそういう事かな、後で細かい予定を連ちゃんに聞けばいいか……。
それよりもだ。
このまま歩いていくと歩道が狭くなる場所があるので、最低でも、どっちかと組んでいる腕を離さないといけないんだが……聞いてくれるかなぁという事が心配だ。
◇◇◇
また★が増えていたので一話投下します。
麻雀の描写がない?
麻雀の描写を真面目に書くと内容が数字だらけになるので……
幕間の学生麻雀大会を妄想で補ってください!
そうすれば実質麻雀の話になります。
◇◇◇
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