第3話 滅茶苦茶麻雀した。


『あいつが……』

『本当に? ……』

『会長と……』

『えー! それって……』

『脅迫? ……』

『エッチが上手いらしい……』

『ベッドでは最強なんだって……』

『童貞臭い顔をしているのに……』

『でも会長を……』

『処す?』

『噂だけでは……』


 高校二年の春、一年から二年になる時にクラス変えが行われ、友達と分かたれてしまった。

 ……一年の時、学校帰りに一緒にラーメン屋に寄り道した事があるんだから友達だよな?

 連絡先とか交換してなかったけど友達だよねぇ?

 クラスが変わったらまったく接点がなくなったけど! ……くぅ……。


 あ、どうもこんにちは……俺です。


 今日も今日とて友達のいない高校二年の春を過ごしています。

 今は朝のHR前だ。


 俺が所属しているクラスの教室はガヤガヤと話声で賑やかで、俺は窓際一番後ろの席でボーっと担任がくるのを待っています。


 俺の耳は別に都合の悪い事だけが聞こえなくなる漫画の主人公みたいな性能はしていないので、そのガヤガヤとした雑談は普通に聞こえてきます。

 どうにも昨日の会長とのやり取りが、生徒達の間で噂になっているようだ……。

 そういやあの公園は通学路に面してたんだったな……。


 その噂の内容ですが、泣きながら会長が俺に縋り付いていたという真実と、後はそこに尾ひれが着いた物で構成されているようで。

 その全ての噂を繋げると、俺はエッチが上手い、やり手のジゴロで、会長を唆して散々弄んでからポイッと投げ捨てようとしたら、会長が泣きわめいて縋り付いたらしいです。


 わー、初耳な事ばかりだね?

 俺も知らない俺の事が噂で広がっていく。


 そして俺の事を童貞臭い顔と言っていた女子には、ニキビが出来る呪いをかけてやりたい。

 真実は時に人を傷つける事だってあるんだからね!?


 ちなみに意識の裏で同盟機能を使い会長と会話していて。

 会長も学校に登校してきたら噂が広がっていてびっくりしたらしい。


 会長の周りからの問いかけには、ちゃんと誤解を解くように答えたから安心だと、その薄い胸をドンッと自分の拳で叩きながら胸を張って答えてきた会長。


 ちなみに謎空間内でのアバター姿は今現在の自分の姿が基本なので、会長も俺も制服姿だ。


 ……。


 ちなみに、会長の事をまったく信用できなかった俺は、詳しく聞いてみる事にした。

 正確にどういう会話で説明したんですか? って。


 そしたらさ。


『×××君にはちょっとした事で焦って縋り付いてしまっただけで、彼には別に酷い事もされてないし……むしろ彼は将来の私のパートナーになるかもな相手であって……えへへ……告白待ち? って感じなのよね~、ん? お金? 渡していないけど? どういう意味? えええ!? リアルでエッチな事!? そそそそそそんな事していないわよ! そういうのはもう少し仲良くなってからの……まぁ……彼は私の胸の事が大好きなのは間違いないんだけどね!』


 といった事を周りの知り合いに言ったらしい会長。

 俺は制服アバター姿の会長に無言でデコピンするのであった。


 以下謎空間でのアバター同士での会話に場面を移す。


 そこは真っ暗な空間……ではなく、10畳の会長の部屋を模したという部屋の中だ。

 ポイントを使ってこういった装飾も出来るらしいのだが、俺の謎空間はまったく弄っておらず、真っ黒なままだ。


「いた! 急に何するのよジャン君!」

「うっさいこの天然ポンコツ会長めが、そんな説明の仕方だと、俺と会長の関係性が誤解されちゃうでしょう!? もっとちゃんと説明してくださいよ!」


「別に間違った事は言っていないからいいじゃないの、もうすぐ君が告白してきて付き合う直前の先輩後輩って関係性なんだし」

「は?」


「え?」

「……」


「……えーと、ジャン君は私との関係性をどんな物だと思っているの?」

「赤の他人でしょう?」


「なんでよー! ペッタン好きの同志でしょ! それに二人っきりの同盟員じゃないの! 昨日の夜だって仲良く二人で朝まで遊んだじゃないの~!」

「人聞きの悪い事言わないでください! まったく……この謎空間だから良い物を、間違ってもリアルでそんな事言わないでくださいね?」


「……」

「ってちょっと待ってください会長、なんで黙るんですか? ……こっち見てください、なんで目を逸らすんですか? 会長?」


「……えっとね……周りの知り合いに、ジャン君と昨日の夜から朝まで仲良く私のお部屋で遊んで楽しかったって言っちゃった……えへへ……」

「……それのせいか……俺がジゴロだのエッチが上手いだのベッドの上で最強なんて噂の元凶はそれか? いや、でも今日の朝に会長から漏れた戯言にしては出回るのが早すぎる?」


「あ、私はほら、朝練のある部活動に合わせて早く登校しているから、登校時に一緒になった運動部の子と色々お話をしたから」

「せめて同盟員になって、謎空間にある会長の部屋を模した場所で遊んでいたって言ってくださいよ……」


「それはほら……同盟の名前を知られたら恥ずかしいじゃない?」

「恥ずかしいと思う名前の同盟に俺を誘わないでくださいよ!」


「ジャン君はペッタン好きだからいいの!」

「俺は別に!」


「別に?」

「……あ、いや……一緒に遊んだって言っても会長にカードゲームでずたぼろにされただけじゃないですか」


「ふふふ、楽しかったよねぇ、まさかジャン君の麻雀ゲームに由来するカードが使えるなんて思わなかったわ!」

「麻雀牌の擬人化カードとか誰得なんでしょうかねあれ……」


「私は確実にリャンソーちゃん推しね! あのスラっとした体形、無駄のない胸部、あの子は私の同類だわ!」

「俺はイーピン子ですかねぇ……」


「ナンデ? ナンデ、アンナニ胸のオオキナ子のハナシをスルノ?」

 ヒェ! 部屋の中の空気が一気に寒くなった。


「あれですほら! えーと……サラサラっとした艶のあるロングの黒髪が会長に似てるなーって思って!」

「……」


「……」

「……もージャン君は私の髪も好きなんだねー、確かにリャンソーちゃんの髪は緑だったからそこは似てないかもね」


 ニコニコ笑顔に戻った会長、ふぅ……地雷原でダンスをしちまった……。


「は……はは、ふぅ……それで会長、このままだと俺の風評被害がすごい事になるので、それとなくさっきの話は否定するなりしといてくださいね」

「ちなみにどんな噂になっているの? 私の所には年下の男の子に泣いて縋り付いてたけど何かあったの? 的な聞き方しかされなかったんだけども」

 なにそれ、会長の周りでは真実だけしか出回っていないのかよ。

 これが人徳の差とかいうやつかね……。


 仕方ないので今もリアル世界のクラスで噂されている内容を、全部会長に教えてあげた。


 ……。


「そんな事に……それは大変だわね……ベッドで最強か……」

「会長だって風評被害を受けてるんですからもっと憤りましょうよ……って、なんで自分の部屋のベッドをじっと見つめているんですか?」


「あのねジャン君」

「なんですか会長」


「この世界だとね……」

「はい」

 会長はセリフを途中で止めると俺を真剣な表情で見てくる。


 ……。


「避妊がいらないらしいの」

「……は?」


「恋人同士でそういう事に同盟機能を使うって話を聞いた事があるの」

「へ?」


「だからジャン君」

「はぁ」


「ちょっと休憩していきましょうか?」

「……馬鹿なんですか? 何で急にそんな話になるんです? 今はリアルの方で一時間目の授業が始まっているんですよ!? エロですか! エロエロ会長だったんですか!」


「違うの! 私は別にエロくないの! もちろん生身ではもう少しだけ仲良くなるまでしないわよ!? でもほら、アバターだから! アバターだから問題ないの! ……それに授業中だと思うと……ちょっと興奮しない?」

「うっわぁ……」


「なんで私からちょっと離れるのよ! ジャン君だって思春期だし、そいう事に興味あるでしょ? これは普通の事なのよ! それに昨日だってすっごい我慢したんでしょう? 可哀想だからちょこっと手伝ってあげようって思っただけなの!」

「……そりゃ俺も興味がない訳じゃ……ん? 昨日? 我慢? 何の話ですか?」


「え? ほら、アバターってその時のリアルの服装が基本的に反映されるじゃない?」

「されますね、今はお互い学校の制服ですし」


「でしょう? 昨日の夜はほら……じつはちょっと透ける素材でブカブカのTシャツをわざと着てみたの、ジャン君も私のその姿にドキドキしちゃって大変だったでしょう?」

 あー、んー、確かに昨日の夜の会長はラフな部屋着だったけど……その服の透け具合で俺が思った事は一つだけです。


 会長ってブラする必要あるんですか? って。


 そればっかり気になっちゃってたなぁ……そういやある意味女の子の部屋にお呼ばれした状況だったのか……一切ドキドキしなかったな!


「そうですね」

「ん? ジャン君ってばそれだけ?」


「じゃぁそろそろ俺は現実世界に戻ろうと思います」

「え? なんで? ちょっと待ってジャン君!?」


「やめてください抱き着いて来ないでくださいエロエロ会長、俺はビッチな人はちょっと……」

「ビッチって何!? 私だって初めてよ!? セクシーなお姉さんと一緒にいる年下男子の願いをかなえてあげようとしただけで何でそうなるのよー!」


「セクシー? 会長の使っている田舎の方言は俺にはちょっとよく分からないんで、東京語を学んできてください」

「関東生まれの関東育ちよ!」


「ハハハ」

「なにその乾いた笑いー! 絶対に逃がさないからねー!」

 アバターで接触されているからといって、この部屋から帰る事が出来ない訳じゃないのだけれど。


 会長のあまりの必死な様子に、仕方なくそのまま会長の相手を続ける俺だった。


 ……。

 ……。


 そうしてこの後、放課後までたっぷりと、会長と二人で滅茶苦茶……。


 麻雀した。


 ルールを覚えた会長は、俺より上手くなりましたとさ……。





 ◇◇◇

 後書き

 麻雀好きのための作品なのに麻雀要素が……

 最後に無茶苦茶麻雀打ってるから良し!

 ◇◇◇

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