第6話 約束のデー……お出かけ
「映画面白かったですね会長」
「そうねジャン君、まさか犯人が主人公の親友の父親の従妹の教え子の亡霊だと思わなかったわね!」
「あれって赤の他人ですよね、驚く要素は皆無でした、まぁ最後の亡霊云々はとんでも展開で楽しかったですけど」
前から約束していた会長とのデー……お出かけ中である、一応周りに人がいないのを確認してネタバレ会話しているのでご安心を。
今日の会長の服は4月後半のまだ寒い頃という事もあって、無地のパーカーに長めのプリーツスカートの組み合わせで大学生っぽいというか……やっぱこの人は美人だよなぁ……と感じさせる。
俺はファストファッション系なブランドが適当に混じり合った感じの洋装だ。
まぁ何処にでもいそうな若者といった所で、この美人な会長の隣に俺がいてよいのかな? と思ってしまう。
「これからどうしよっか! ジャン君!」
会長が俺と腕を組みながら、おじぎをするように少し頭をさげて下から見上げるように聞いてくる。
ファッション誌のモデルさんか何かですか? 可愛すぎでしょうに。
これで俺の腕にクッションが当たっていたら惚れちゃいますよ?
ギュゥゥゥゥ、会長が何故か組んだ腕に力を籠めてくる。
クッションがないので、すごくイタイ。
「あの、ちょっと痛いんですけど会長……」
「あ、ごめん、なんだかジャン君にお仕置きしないといけない気になって……なんでだろ?」
なんででしょうね。
例の不思議メニューで買える能力には、現実でテレパシーが使えるような物はなかった……つまり女の勘という奴だ、おそろしや。
そうして映画館の出口に向かうと……外はザーザーと激しい雨が降っていた。
「えええ!? 今日の天気予報では晴れのはずよね?」
「ですね……俺も家を出る前に天気予報を何回も確認しましたし」
携帯端末をポケットから出して天気予報を……あ……。
「会長、この地方に水精霊注意報が出てます」
「こんな時に!? 晴れのち水精霊で大雨になるでしょうって事かぁ……水の精霊は面倒なのよねぇ……」
「どうしますか、お出かけ中ですが倒します?」
「嫌よ! 精霊なんて戦って倒しても大赤字じゃないの……こないだ水の精霊と戦った時は10万ポイントの赤字だったわ……」
え? ……まぢ?
まぁ色々と変動はするがメニューから買える物からして100ポイント=50~200円くらいだと思ってくれ。
物によって現実世界と値段比率が違うので、ちょっと幅がある感じ。
「精霊ってそんなに強くないですよね? なんでそんな事に?」
「はぁ? 何言ってるのよジャン君、精霊は強いじゃないの! 自然を司るからアホみたいな威力の範囲攻撃してくるし、コストは軽いし……あんなのチートよチート! チーターよ! しかも自分で使うとそこまで強くないという……精霊デッキが組めれば強いんだろうけど、その枚数を集めるまでの赤字を考えるとね……」
ああ、そういう事か……。
「それじゃ俺がちょっと倒してきますね、一瞬で済みますので待っててください」
魔物との戦闘中はリアル時間と同期されてないっぽいからなぁ、第三者からは一瞬で終わるように見えるんだよね。
俺が外に出ようとするも、会長は腕を離してくれない、なぜに?
「えっと……会長?」
「どういう事? 精霊なんて厄介な魔物で有名じゃないの……」
「えーと……結構ポイント美味しいんですよね」
「……麻雀だと楽な感じ?」
「そうなりますね」
「……私も参加させて」
「会長はさっき嫌だって言ってたじゃないですか」
「楽にポイント稼げるなら行くわよ! ……ほんとに赤字にならないのよね?」
「ええ、下級精霊はゴブリンと同じ感じでアホですから、漫画やゲームみたいに頭の良い上位精霊とか出てきたら分からないですけどね」
ゴブリンみたいなアホな魔物は時間切れでツモ切りとかも多いんだよなぁ。
「いよっし、それなら私も参加するわよ! あ……ペア戦闘だとジャン君の収入減っちゃうけどいい? 後で勿論私の体で補填はするけども」
「この規模の雨だと複数の精霊でしょうし、ちゃちゃっとやっちゃいましょうよ、よろしくお願いしますね会長」
体云々はスルーした。
「うん! 私達夫婦の通しサインを水精霊達に見せつけてやりましょう!」
夫婦じゃないですし、麻雀での通しサインは誇って言う事ではないと思います。
まぁいいか、魔物との戦いを俺の方を主体にする設定にしてから、同盟員である会長をペアに指定してっと……。
さて……。
「そういや会長」
「何? ジャン君」
「俺が前に戦った精霊も水の奴なんですが、その時は一体のみで小雨だったんですが……この雨の中に飛び出ないと駄目ですかねぇ?」
俺と会長の視線の先では建物の外に振るザーザー降りの雨が見える……。
「……まるで台風ね、とりあえず携帯端末だけ濡れないようにしましょうか……」
「ですかね……売店で傘か何か買って、ついでに携帯端末やら荷物を入れるためにビニール袋でも貰いましょう、いや、それとも――」
……。
……。
――
会長が右の耳たぶを触ってから鼻を一回かいて左肩を触る、そして俺に右目でウィンクしながら投げキッスを手をピースの形にしながらしてきた。
なので俺は余っている
「ポンッ!」
会長が白を鳴き、また俺の番がきたので、余っている
「ポンッ!」
会長が發を鳴き、余った字牌らしき物を切ってきた、そして俺は会長の捨て牌にあった3ピンを切る。
そして下家の水精霊は何やらポヤポヤしている……。
人の形をしているのに知恵が低いっぽいんだよねぇ……体は水で構成されていてナイスバディ美人なのに、幼稚園か小学生低学年くらいの知恵っぽく感じる。
時間切れなのか水精霊の
「ロンッ! 大三元!」
わぉ……会長が役満をあがっていた、そして消えていく水精霊。
残りの一体もすぐ倒しちまおう。
俺は会長に祝福の言葉を送る。
「おめでとうございます会長」
「ありがとうジャン君! やはり無駄脂肪は殲滅するに限るわね!」
水精霊だから、あのポヨンポヨンな胸部は脂肪じゃないと思うんだけどなぁ……体透けてるし。
「脂肪じゃなくて水ですけどね」
つい思考のままに突っ込みを入れてしまった。
「風精霊はシュッっとしてて敵ながら好感度が上がるのに、なんで水精霊はあんなに……ねぇジャン君?」
「なんですか会長、次は何が欲しいんですか? サインください」
「いえ通しサインの練習はもう完璧だからいいでしょう、そうじゃなくてね、さっきからジャン君の視線の先が水精霊の無駄脂肪っぽい部分に向いている気がするのは……気のせい……カナ?」
会長が首を90度カクッと曲げてそう聞いてくる。
こっわ! さっきの映画じゃないけど……亡霊役とか似合いそうな感じだ。
さすがに水風船を見すぎていたか……四人打ちだと結構暇な時間出来るからなぁ……今は水精霊が一体脱落してサンマだけど。
楽しい観察はカードバトルゲーの練習モードでやるとするか……。
今回ので一杯手に入りそうだから、ポヨンポヨン水風船祭が開催出来そうで嬉しいね。
「そうそうジャン君」
最後の水精霊を倒して、謎空間から離脱する前に会長が話しかけてくる。
「どうしました?」
「今回の戦いとかその前の戦いでジャン君は水精霊カードをゲットしているのよね?」
「そうなりますね、あ、トレードしたいですか? いいですよ三枚くらいでいいですか?」
俺が主体の戦闘だからね、会長にはポイントだけしかいかないんだよね、そして今回はそれなりの数の水精霊を倒しているので、20枚くらいゲットしている。
「全部」
「はい?」
「だから全部よ」
「えっと……そこまで必要なんですか?」
「いーえ、そういう事ではなくてね? ペッタン好きのジャン君の側に無駄脂肪はいらないよね? 麻雀カードはデフォルトで備わっている物だからピンズ子達は仕方ないけど……無駄脂肪は私が預かっておいてあげる、代わりにペッタンハーピーカードやペッタンドリアードカードをあげる……だから水精霊は全部くれるわよね? ジャン君にとって……ゴミダモノ……ネ?」
会長の目が死んでいる……亡霊役とか似合いそうですね。
「いやえーと……そうだ、俺が会長と一緒にカードバトルをする時に戦力として欲しいんですけど……会長を守るために必要なんですが……」
「む……確かに墓地に送る低コストカードは必要よね……まぁ……私を守りたいジャン君には少しでも戦力が欲しいわよねぇ……ううう……仕方ないから認めるわ! 私を愛するあまりに苦手な無駄脂肪すら使おうとするなんて……ジャン君……ちゅき」
会長の目がハートになっている。
……ある意味怖いので、亡霊役とか似合いそうですね?
……。
……。
なんとか収まって? 現実世界に戻ってきた俺と会長。
そんな訳で今は道に立っている二人なのだが……。
「やっぱりあの雨風だとこんなビニール傘じゃ駄目でしたね会長、精霊が近寄ってくるまでの時間でお互いに服とかビショビショですねぇ……雨やんできましたけど何処かで乾かしましょうか」
「そうね、でも大丈夫、ちゃんと考えてあるから、あそこで乾かしましょう」
お互いびしょ濡れのまま、会長に腕を引っ張られて歩き出す。
映画館の中で、やっぱりレインコートを買って外に出ようと言ったのに、精霊がよく見えないから傘だけでいいと俺の提案を断った会長には、終わった後に服を乾かすあてがあったのだろう。
さすが有能生徒会長だな、頼りになる。
……。
そして繁華街を少し歩いた先には、派手な外観の建物があった。
……。
そして何も躊躇する事なくノレンを潜って入ろうとする会長。
俺はそれを押しとどめて。
「いや、まってください会長」
「どうしたの? ジャン君、私早く服を乾かしたいんだけど、このままじゃ風邪をひいちゃうわよ? くしゅん」
「それでここで乾かそうって? 嘘クシャミやめてください」
「そうよ、ほら早く」
ぐいっと俺を引っ張る会長に、俺は本気で抵抗する。
「ここラブなホテルじゃないですか!」
「大丈夫よ服はちゃんと乾くから! ……どうせしばらく服を脱ぐんだから置いておけばそのうち乾くわよ!」
「おかしいよね!? 乾かす目的の服が蔑ろにされている気がするんですけどぉ!? もっと服を大事にしてあげてください!」
「もう告白を待ってられないの! 青春はあっという間に過ぎ去るってお母様も言っていたわ! どうせそのうち貴方と通る道ならさっさと済ませましょう! ほらジャン君、覚悟なさいっての!」
「引っ張らないでくださいよエロエロ性と会長! 普通逆でしょう!? なんで女性が男性を引っ張り込もうとしてるんですか!」
「貴方が絶食系でヘタレだからでしょう? いいからとっとと私の初めてを奪いなさい!」
「いーやーでーすー!」
「あーきーらーめーなーさーいー!」
……。
そうして俺と会長の攻防は辛うじて俺が勝つまでしばらくその場所で続いた。
なんとかラブなホテルから離れた俺は、タオルを何枚かコンビニで買って、カラオケボックスでドライヤーを借りて服を乾かす事で妥協させた。
会長は初めて入るというカラオケボックスに興奮していた……あれ?
そういえば俺も一人以外で入るの初めてだな、と気づいて少し悲しくなった。
てかカラオケボックスを知らないって……会長ってば箱入り娘か?
……。
……。
――
ちなみに、このラブなホテルの前での俺と会長のやり取りの一部を、うちの学校の生徒が通りがかりに見ていたらしく……。
週明けの学校で、何故か俺が会長をラブなホテルに連れ込もうとしていたという噂に変化して流れていた……逆なんだけどなぁ……。
学校の男子からは尊敬や嫉妬の籠った目を、女子からは軽蔑と感心の籠った目で見られた……。
何故か前に噂になった時より、俺を見る目が少し変わってきている気がする……。
これはつまり、彼女持ち男子が一部の女子にはモテるって奴に近いのかなって……見も知らない女子に告白されながら思う事になりました……。
……だれか……タスケテ。
◇◇◇
後書き
ちょっとした短編の完結済み作品のはずだったのに、また新たな麻雀好きが出て来まして……
ネット麻雀って楽しくて……そして辛いですよねー、ウンウン、まるで蟻地獄のように離れる事が出来ないゲームデスヨネ……。
てな訳で新たな麻雀好きのために、もう一話追加しました
◇◇◇
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