第7話 告白の顛末

「えっと……俺の何処が気になったのかな?」

「×××先輩は生徒会長をもガチ惚れさせるくらにエッチが上手いって聞いたんです!」


「ああうん、噂話をそのまま信じないでね? 俺と会長はただの知り合いだから」

「なので……私も高校生になってその……彼氏が欲しいなって思って色々ネットとかで調べたんですけど……経験がないと敬遠されるらしくって……」


「うん、会話になっていないよね、俺の話聞いてる? もしもし?」

「それでその……エッチが上手いという噂の先輩なら初めてを優しくしてくれて痛くないかなって思いまして」


「だからね、俺の話をね……」

「なので私と一晩だけの恋人になってください、お願いします!」


 どうしようこの子まったく俺の話を聞いてくれない。

 今俺はすごく困っています……誰か助けてください……。


 ……。


 切っ掛けは、月曜に学校に来たら生徒会長との噂話が学校中に知れ渡っていた事で。

 なんでも俺がラブなホテルに会長を連れ込もうとしていたとかどうとか……。


 逆なんだけどな、俺が連れ込まれそうになっていたのを必死に耐えていたんだが。


 まぁそれはいい、良いのだが……その噂のせいで今目の前にいる一年生である後輩の女の子に声をかけられて、こうやって学校の裏庭に連れてこられて……こんな訳の分からない告白をされているという訳だ。


 ちなみに俺はジゴロでも遊び人でもないので、彼女の期待には応えられないだろう。

 と、そう言う事を会話の合間に説明をしたのだが……何故か俺の話を聞いてくれない。


 いや、まさかこれはよくあるイタズラ告白の可能性が!?

 俺は周囲の確認をする……特に人影はないか……。


 でもウソ告白の可能性は否定できないな、それだと下手に良い人ぶって、その場面をネタにされるのも嫌だし、逆にこの告白を本気にして答えてもネタにされるか。


 むぅ難しいなこれは。


「あの先輩?」

 むーん……どう答えたものか……。


「×××先輩? えっと返事をいただけるとその……」

 そういうのは好きになった人に、なんてのは笑いの種にされそうだし……。


「もしもーし? せんぱーい?」

 かといってじゃぁ逆に、いいぜ俺が優しくしてやる、的な事を言える訳もなく、むしろ俺が優しくしてほしいしな。


「あの? 聞いてますか?」

 ここは無難に会長一筋だからとか、そんな感じで誤魔化すか。


 返事を決めた俺は後輩の女の子に顔を向け。


「ごめん、俺には会長がいるからさ、その話を受ける訳にはいかないんだ」

「あれ? ……そんな! ちょっと一晩相手をしてくれるだけでいいんですよ? 私って結構美人でスタイル良いと思いませんか? そんな美少女を一晩好きに出来ちゃうのに断るんですか!?」

 確かに俺に声をかけて来たこの後輩女子は可愛いと言っていいだろう。

 ボブカットの髪は少しだけ色を抜いているのかブラウン系で、その小顔にすごく似合っているし。

 それに、会長とは違って……お胸様がそこそこある。

 決して巨大ではないが、まだ高校一年生という事を考えれば、将来有望だと思われる。


 だがまぁ、どれだけ可愛かろうが、お胸様が将来性ピカイチだろうが、身も知らん赤の他人に告白されるなんてのは……正直怖い話だと思わないか?

 告白の内容も酷い物だしさ……。


 エロゲかよ! と突っ込みを入れちゃうと、俺が何故18禁のはずのエロゲの内容を知っているのかと問われる可能性があるので出来なかった。


「そういう訳なんでそういう事は彼氏でも作ってやってください、では失礼します」

「ちょっと待ってください先輩! 貴方男でしょう? 据え膳に手を出さないとか意味が――」

 帰ろうとする俺の制服を後輩女子が掴んで止めてきた、そしてそこに。


「ジャン君? 何しているの?」

 学校の裏庭という人があまりくる事のない場所に、生徒会長がタイミング良くきたのであった……ん? いくらなんでもそんな事ある?


「後輩女子に呼び出されて話をしていた所です、会長こそどうしてこんな所に?」

「私は、手紙で呼び出されて来たのだけど……何しているの×××ちゃん?」

「ち、違うんです、えっと……×××先輩をちょっと揶揄ってみようかなって……えと……その……失礼します!」

 そう言うなり後輩女子は走っていってしまった。


 ……。


「……えっと、結局なんなの?」

「……俺に聞かれても知りませんよ会長」


 会長を手紙で呼び出した子は、俺に声をかけてきたさっきの後輩女子で、生徒会の一員で知り合いらしい、てかこの時期に一年が生徒会に入れるっけか?


「それでジャン君、あの子と何の話をしていたのかしら?」

「ああいやえーっと……揶揄われていたのかな? 詳しい内容は本人に聞いてください」

 内容とか言える訳がない。


 俺と会長は人気ひとけの無い裏庭方面から二人で校舎へと戻る……それを見た他の生徒達に、新たな噂をたてられたのは……まぁ別の話だ。


 ……。

 ……。

 ――


「×××先輩! 私と勝負してください!」

 その日の放課後だ、俺と会長がいつものごとく二人して学校から歩いて帰宅していると、例の後輩女子が俺達の前に踊り出て、俺を指さしながらそう宣言してきた。


「急に出て来て意味が分からんのだけど……君は何がしたいんだ?」

「×××ちゃん、急にどうしたの?」


「お姉ちゃんをそのエッチのテクニックでたぶらかしているのは知っているんです、さっきは他の女に手を出す所をお姉ちゃんに見せて目を覚まして貰おうとして失敗しましたが、今回は真正面から貴方を叩きのめして情けない所を見せつけてやります!」


 ……そういう事かぁ……この後輩は会長をお姉ちゃん呼びするほどに好きだか尊敬しているからあんな事を、って誰がエッチのテクニックでたぶらかしているんだっての……。


「どうしましょうか会長」

「色々誤解があるみたいだわね……この子はすごく良い子なんだけど思い込みが激しい部分があるのよね」


「まだ4月の終わりだし、三年と一年なのに良く知っているみたいですね」

「ああ、親戚なのよ、その関係で入学と同時に生徒会に入って貰ったのだけど」


「ああ……なるほど、だから会長の事を『お姉ちゃん』って呼び方なんですね」

「私とジャン君の変な噂を聞いて信じちゃったんでしょうねぇ……ただのラブラブカップルなだけなのにね?」


「嘘をつかないでください会長、ただの同盟員ですよね?」

「どうせそうなるんだから前借りしても良くない?」


「存在しない物を借りようとしないでください、どうにも俺と会長では生きている世界線が違うようです」

「でもジャン君は、私が腕を組んでも素直に受け入れてくれてるじゃないの」

 会長のその言葉を聞いた俺は、自分の腕を見る……。


 そこにある俺の腕には会長が腕をからませて組んできていて、まるで恋人のようにも見えなくもない……。


「いつの間に……」

「校門を出る前からしているわよ?」


「……まったく気づきませんでした」

「ふふ、それだけ私とジャン君が腕を組む事が当たり前という意識なのね、ほら、やっぱりラブラブじゃないの」


「いえそうじゃなく、腕に凹凸が当たらないから――」

「ナニガ、アタラナイッテ?」

 俺と組んでいる会長の腕に力が入る、イタイイタイ! もうそれは格闘技の閉め技と言えるのでは!?


「私を無視しないでイチャイチャしないでください! ×××先輩もお姉ちゃんも!」

 俺と会長の間に後輩女子が突っ込んできてくれたので、おかげで閉め技から解放された。

 ありがとう後輩女子。


「もう、×××ちゃんもイチャイチャって自分で言っているじゃない、つまりは仲が良いのは見てて理解出来たのでしょ? だから私とジャン君の変な噂とか信じちゃだめよ?」


 あれをイチャイチャというのなら、世の中のプロレスの試合は全部イチャイチャになってしまうのですがそれは。


「ううう、私のお姉ちゃんがぁ……勝負してください先輩! ……お姉ちゃんに相応しいかどうか私が判断します!」

 誤解が解けたような……解けてないような……あ、そうか。


「うんじゃぁ、俺の負けでいいよ、わーやられたー、これじゃぁ会長には相応しくないなー……では会長、今日は本屋に寄るのでこのあたりで失礼します」


「待ちなさいジャン君! 何今の棒読みセリフは!」

「こんな可愛い後輩女子を勝負で負かせて泣かす訳にいかないですし、会長の事は諦めようと思いまして」


「諦めるの早すぎでしょう! もっとこう命を懸けて守りにきなさいよ! これがこの子じゃなくて間男とかだったらどうするのよ!」

「会長の幸せをお祈りしておきます?」


「……本当にお姉ちゃんの彼氏なの?」


「違います」

「彼氏よ! ……未来の」


「昨日私が先輩に嘘告白した時は、お姉ちゃんがいるからって断ってきたのに……」


「ばっそれは!」

「へぇぇぇぇぇぇぇ? ふふーんジャンく~ん? あれあれー、私がいるから告白を断っちゃうんだぁ~そうよねぇ~、大好きな会長が彼女だもんねぇ~ふふーり」

 会長は俺の腕に再度絡まりながらうざ絡みをしてきた。


 あの時は後輩女子の告白を躱すためにそう言ったんであってなぁ……。


「あれはですね、後輩女子の告白を躱すために嘘をついたんであって、聞いてますか会長?」

「聞いてる聞いてる、こんなに可愛い後輩からの告白をきっちり断って、その理由が私がいるからなのよね? ふふ、もう天邪鬼なんだから、次のデートは何処にする?」

 聞いてないじゃないか! 次のって、この間のはタダのお出かけでしょうに!


「デート!? もうお姉ちゃんとデートして、やっぱりエッチな事を……噂は……勝負です先輩!」

 いやそんなん言われてもなぁ……俺が得る物のなさそうな勝負だし。


「そういえば×××ちゃんはジャン君と何で勝負しようと思っているの?」

 会長の質問を聞いて俺も同じ思いを抱く。

 そういえばなんだろう? カラオケの点数勝負とか?


「それは……神から与えられた、この不思議ゲーム能力……麻雀で勝負です!」


 ん?


「君も……いや後輩ちゃん、君の事はなんて呼べばいい?」

「私ですか? えっと×××という名前なんですけど」

「私は名前からレンちゃんって呼んでるけど」


「ほほう、それは確かに良い名付けですね会長、ならば俺も連荘……連ちゃんって呼ぶね」

「お姉ちゃんと×××先輩で同じ音なのに何故か意味が違う気がするんですけど……」


「気にするな連ちゃん、じゃぁ麻雀をしにいこうか、何処でやるんだ?」

 まさか麻雀好きな女子に出会えるとは思わなかった、すごく嬉しい!


「えっと、私の同盟に入ってくれれば練習モードでいけます」

「おっけー入ろうか、えっと同盟って入れるの一個までじゃないのな……『麻雀好き同盟』か、良い名前だな」

「……先輩……お姉ちゃんに習ってジャン先輩って呼びますね、ジャン先輩も麻雀好きなんですか?」


「おう! 大好きだ! 俺の選んだゲームも麻雀なんだぜ?」

「わぁジャン先輩もなんですか!? 実は私の周りに麻雀好きでゲームをそれにした人っていないんです! 仲間が見つかってすっごく嬉しいかもです!」


「俺も嬉しいぞ、会長は麻雀上手いけど好きって感じでもないからな」

「あ! あ! それすっごい分かります! お姉ちゃんってば私を飛ばすくらい上手いのに、そんなに好きじゃないんですよね」


「そうなんだよなぁ、会長はなまじ麻雀が上手いから、ちょっと熱の入れ方の違いで寂しくなるんだよな」

「それすっごく分かりますジャン先輩! お姉ちゃんは何でも大抵上手く出来ちゃうから一歩外から見てるというか」


「おーそうそう! それな! さすが親戚だな、会長の事を良く知っている」

「あ、従妹なんですよ、一緒にいると姉妹に見られちゃう感じで仲が良いんです」


「確かに会長と同じで連ちゃんも美人だもんなぁ、姉妹っぽい」

「えーやめてくださいよジャン先輩、私はお姉ちゃんほどじゃありませんってば」


「いやいや、会長とは違った――」

「待て待て待て待てまてーーーーい!! 何を二人して仲良く会話しているのよ! レンちゃんも! 貴方はジャン君の存在が気に入らないからケンカを売りに来たんでしょう!?」


「んー、やっぱりケンカは良くありませんですお姉ちゃん、なのでジャン先輩とは麻雀好き同士お話したいなーと思います、ジャン先輩はどうですか?」

「そうだな、じゃあ同盟機能を使って裏世界で会話しながら麻雀しようぜ?」


「分かりました! ではジャン先輩、裏意識の方でよろしくです」

「おう、許可をポチっとな」


「待ちなさいって、こらー! ちょ、ジャン君!? 恋人の目の前で浮気とか有り得ないからね?」

 誰が恋人ですか誰が、まぁ取り敢えず家に帰るとしよう。


「じゃ分かれ道まで一緒に帰りましょうか会長」

「私も途中まで一緒に行きますねジャン先輩」


「ちょっと待って二人共! 私も帰るから……って、貴方達今裏意識で会っているでしょ! 私も同じ裏世界に入れなさい! 監視しないといけないから! って聞いているの? 二人共ーー!!!」



「まさか麻雀好きな女子に出会えるとはなぁ……今日は最高に良い日だなぁ」

「私も麻雀好きと知り合いになれて嬉しい日になりましたジャン先輩、いっぱいしましょうね?」

「私にとっては最悪な日よ! ってレンちゃん? いっぱいやるってのは麻雀よね? いけないあれこれじゃないわよね? ちょっと? なんで裏でも話しているだろうに、表でも仲良く並んで二人で会話しながら歩いていくのよー! ちょっと待ってってばー」


 ……こんな状況を通学路でしていた俺達だったのだが。


 勿論新たな噂が学校に鳴り響いた事を報告しておく。

 内容は次回にでもな。




 ◇◇◇

 後書き

 何故か、現代ファンタジーの週刊ランキングに入ったんですよ、まぁ500位台とかなんですが。

 どうも高評価の☆が増えていたみたいで……新たな麻雀好きが現れた! という事なのでもう一話追加しておきますね。

 麻雀をやっている話が出て来ない?

 いやほら、主人公と後輩ちゃんの裏意識ですでに麻雀初めてるから実質麻雀の話です。

 ◇◇◇

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