第19話 水精霊と会長

 無いものは無い、の無いの部分を、俺は一切魔物達に という方向に話をもっていきました。


 嘘はまったくついていないので、女性の勘もすり抜ける事ができた。

 ふー……危なかった。


 という訳で、上級水精霊な魔物を呼び出して会長に会わせる事になった。

 ……いやほら、俺の言っている事が本当なのか、水精霊に聞いてみたいと言われたらそりゃねぇ。


 会長が指定したのが、なぜ水精霊だけなのかというと。

 俺が持っている魔物達の種類を会長には詳しく話していないからだ。


 中身が女性だという事を教えていない黒騎士の事はスルーされたし、サキュバスの事は今までまったく話題にも出した事がないので、存在を忘れているのかもしれない。

 後はマーメイドの事も忘れてくれていたらいいんだけど……。


 会長とカードバトルで遊んだ時も、麻雀の擬人化カードしか使わなかったし、ワンチャン水精霊だけの呼び出しで済むかもと期待している。


 そうして謎空間に呼び出した上級水精霊。

 普通の水精霊はポヤポヤっとしたイメージの可愛らしい中高生という感じだとすると、上級水精霊は仕事の出来るクール系お姉さんといった見た目をしている。

 ただし体も服も水で出来ていて向こう側が透けてみえるので、人の形をしていても、人とは違う存在なのだなぁと思い知る。


 黒騎士や上級水精霊達と麻雀した時も思ったんだが、彼女らは俺の事をマスターとか主人とか呼んでいて、俺もなんとなく主従関係があるような事が心の奥底で理解できたんだよね。

 とはいえ最初から命令に絶対服従という感じでもなくて……うーん、言葉にするのが難しいけど、好感度パラメーターのあるテイマー系ゲームみたいな?

 なのでまぁテイマーっぽく、なんらかのパスが精神的に繋がっている事を願い、上級水精霊に上手い事話をそらしてほしいと心の中で願っておく。


 俺がそんな風に召喚した上級水精霊に向き合っていると、会長が口を開く。


「ジャン君とデートした時に倒した水精霊と見た目が違う?」

 あれはデートじゃなくお出かけだったのだが、今そこはどうでもいいや。


「えっと、精霊系の子達は、なぜか合成する事が出来たんですよね、何枚か重ねたらこの子になったんです」

 ゴブリンや半魚人達は合成不可だったんだよなぁ……よく分かんない仕様なんだよな。


「配下の合成!? そんな事が……ちょっと待ってねジャン君……」

 会長が自分の謎メニューを弄り出したので、自分の手持ち配下を確認しているのだろう。


 そんな中でも俺は、上級水精霊と目と目を合わせつつ、俺のポヨンポヨン鑑賞会の事は言わないでくれと心の中で願っておいた……伝わっているかは神のみぞ知るって所だ。


 命令じゃなくてお願いなのは……なんとなく命令すると好感度が下がりそうなイメージがあるからだ。

 テイム系のゲームって配下に無茶な命令すると好感度が下がる時とかってあるよね?


 ……。

 ……。


「手持ちの配下ではそういったメニューは出てこなかったわね……固定された肉体を持つ魔物と持たない魔物の違いとかかしら? 今度精霊を倒しに……って、今は横に置いておきましょう」

 ブツブツと呟きながら何事かを考察していた会長は、顔をあげて俺達の方に視線を向けてきた。


「えっと、じゃぁうちの上級水精霊と会話してみますか?」

「ええ、そうしましょう……ハーピー以外の魔物と初めて会話するかもだわ」

 あー、そういえば会長の手持ちの魔物達って人型が少ないよな。

 上半身が女性の姿であるハーピー族が一番人間に近い見た目をしているかも?

 マンドラゴラとかはいびつな大根って見た目だしさ……。


 上級水精霊の前に出た会長は、自分より背の高い彼女を見上げながら話しかける。


「こんにちは精霊さん」

『……』

 対して水精霊は、会長の挨拶を受けると、俺と会長の顔へと視線を行ったり来たりさせている。


 あーっと?

 ああ!


「その人、あー、会長さんと会話してあげてくれ」

 もしかしたら他人と会話するには主人の許可が必要なのかもと思い、そう促してみた。


『了解しました主様あるじさま、こんにちは会長』

 水精霊は会長へと向き合って挨拶を返した。


 ……俺の事はあるじ呼びなのか……というか初めて自分の配下と会話した気がする。

 ほら、謎ゲームがアップデートしたのはいいけど、どんな罠が潜んでいるか分からんので、情報を集めてから手持ちの魔物達と会話しようと思ったんだよな。


「会長呼びなのね……まぁいいわ、まず私が聞きたい事は、ジャン君……貴方の主人と貴方や女性型魔物達はえっちぃ事をしたのか? って事よ」


 会長の質問に合わせて、心の中で模範的解答を上級水精霊に伝えてみる俺だった。

 頼む伝わってくれ! 出していない! 出していない!

 うぬぬぬぬ!


『……私のような女性型配下に、主様が出した事はありません』

 よっし! 勝利!

 話し始める前に、上級水精霊が一瞬俺の事を見たので、以心伝心的な能力が本当にあるのかもしれない。

 それとも、上級水精霊の空気を読む力が優れているかのどちらかだな。


「そうなの……残念ね……」

 会長は何故か残念そうにしている……なんでだよ……。


 ってそうか、俺が魔物にえっちぃ意味で手を出していたら、同じ事を会長にするまで帰らせないって言ってたもんな……あれ、本気だったんだな……。


 そうして、知恵のある上級水精霊との会話を気に入った会長が、彼女と会話しながらカードゲーで遊ぶ事になった。

 ハーピー達の知能は十歳未満くらいらしいので、対等に会話できるのが会長的に嬉しかったみたいだ。


 ……。

 ……。

 ――


 そんでまぁ、上級水精霊をカードデッキに入れて会長と戦った俺なんだけど、上級水精霊の能力がガチでえげつなくてさ。

 激しい雨をフィールドに降らして、会長のハーピー達を一切飛ぶ事が出来なくして完勝とか……初めて正攻法で会長に勝った気がする。


 ……正攻法じゃないというか会長が手加減してくれて勝った時とかはあるんだけど。

 ……その時は手加減のお返しに、俺が会長にオヤツをアーンで食べさせるという権利を売りに出す必要があってなぁ……。

 試合に勝って勝負に負けるとは、ああいう事をいうのだろうか……。






 ◇◇◇

 後書き

 新たな★の評価があったので、さらに一話投下します

 ◇◇◇

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