第18話 試験後

 教育実習生として高校に来た大学生のようなパンツスーツ姿の会長に、連日勉強を教えて貰ったおかげか、中間考査はそこそこ良い出来だったんじゃないかと思う今日この頃である。

 まだ試験が終わったばかりで結果が出来てないけど、いつもよりかは順位が上なんじゃないかなーという手ごたえはある。


 あ、そうそう、アバター姿で他の人と会える同盟機能を使って試験のカンニングが出来てしまいそうに思えるだろうけど、それは無理だった。

 何故かというと、謎能力で購入できるアイテムの中に、そういった行為を防ぐ事の出来る物があって、謎空間を使用している人が分かるとかなんとかなアイテムがあるんだとさ。


 会長と初めて会った時も、俺がサキュバスと戦闘している所を覗き見をしていたような事を言ってたしな。

 まぁそういうアイテムって使い捨てだし、そこそこ高いから購入する気にはなれないけどね。


 とまぁ中間考査が終わってホッとしているのだけど、勉強会で何度も俺の家に会長と連ちゃんが訪れたために、うちの母親と二人が仲良くなってしまった……。

 二人共お土産とかしっかり持ってくるし、母親と会長がゲームの話とかで盛り上がってたりして、随分と気に入られているようだ。


 おかげで夕飯時に『どっちが本命なの?』と母親が煩く聞いてくるようになってしまい、かなりうざい事この上ない。


 どちらと言われてもなぁ……俺の好みを会長に知られる訳にもいかないし……。


 あーやめやめ、これは考えて答えが出るものじゃないな。

 今は目の前にいる会長の話に集中するとしよう。


 今日は中間考査が終わった平日の日なので、家に帰った後で謎能力の同盟機能を使った仮想空間内でお話しをしている所なのだ。


 俺は試験が終わったら真っすぐ家に帰って、今は自分の部屋にいる。

 そしてそれは会長も同じ感じらしいので、お互い部屋着である。

 連ちゃんはクラスメイトと打ち上げしているらしく、今はここにいない。


 ……へー、世の中の高校生は試験が終わるとクラスメイト達で打ち上げをするのかぁ……知らなかったなぁ……。


 謎空間にいるアバター側は思考分割されたような状況なので、リアルで何していても関係ないんだけど……連ちゃん達は謎空間を使った交流もするかもとかで、ここに来るのは遅れそうだとかなんとか。


 クラスメイト集めて何すんだろな? リアルでカラオケをやりつつ、誰かの謎ゲーム空間内でも遊ぶとか?

 俺が知っているのは会長のカードゲーと自分の麻雀しか知らないから、他の謎ゲーム空間がどうなっているのか知らんのよな。


 一応連絡用で同盟だけは親とも組んでいるんだけど、謎空間は一つしか使えないからねぇ、こういう事も、まぁあるよな。


「ジャン君? 私の話聞いてる?」

「っとごめんなさい会長」

 色々と考えて黙っていたら会長から突っ込みがきてしまった。

 俺も準備しないとな。

 

 今は会長のカードゲーの練習モード空間に入ってきており、会長とカードゲーで遊ぶ予定なんだよね。

 いつもの麻雀カードを使ったデッキを用意しないとな。


 自身が選んだ謎ゲームの特徴を備えたカードがデフォルトで用意されている訳だが、俺は特にポヨンポヨンのピンズ子カードを使う事が多い。


 会長はスラっとした娘達が多いソーズちゃん達推しなので趣味が合わないんだよなぁ……。

 ……ちなみに、イケメン揃いのマンズ君九兄弟達は一切使ってません。


「そういえばジャン君さぁ、この謎なゲームの仕様がアップデートした事に気付いている?」

 会長はメニュー画面を利用してカードデッキを組み直しながら俺に質問してきた。


 アップデートってあれだよね?


「俺らが倒していた魔物に意思が備わった奴ですか?」

「そうそう、まぁニュースとかでも連日報道されてるもんねぇ……」


「意思ある魔物に人権があるのか? とかって番組の告知は見かけましたね」

 コミュニケーションが取れたとしても、自分のゲームの中でしか交流できない相手に人権がどうたら言い出す人がいるものなんだな、と、その時は思ったっけ。


「人と大して見た目も知恵も変わらない魔物がいる事で、色々と議論が交わされているみたいなのよね」

「そんなものですかねぇ?」

 そういうニュースとかをちゃんと見るくらいならゲームしているしなぁ……昨今の世論とかさっぱりなんだよな。


「謎空間がリアルとほぼ変わらないのなら、そこで触れ合う事のできる知的生命体? 知的情報体? には人権を認めるべきだとかなんとからしいわよ」

「ええ? 今ってそんな事になっているんですか?」


「……ほら、一部の人達が謎空間内で魔物と結ばれたって話があるじゃない?」

 え? ……そりゃ謎空間で会長に腕を組まれると、あばら骨が二の腕に当たるくらいにリアルだし……というか連ちゃんのポヨポヨもリアルとほぼ変わらない感触だから、あの謎空間は第二のリアル世界とも言えちゃうくらいなんだけど。

 魔物と結ばれるって……どういう事?


「結ばれるとは?」

 取り敢えず細かい内容を知りたくて会長にオウム返しな質問をする。


「そりゃ……あれやこれをする話なんだけど……その後に魔物と結婚を宣言する人もいるって聞いたわよ?」

 あれやこれ……エッチィ事かな? ……謎空間内は人同士でもそういう使い方が出来るって会長が以前言ってたし、魔物相手でも……そっかぁ、出来ちゃうのかぁ……。


「なんというか、すごい世界になったものですよね」

 世界にゲームが降って来た訳だけど、まさか仮想空間みたいな謎空間内で魔物と結婚する人が出てくるなんてな。


「そうねぇ、しかも、謎空間内だけでそういった事が完結してしまう事に危機感を覚えた政府が、法律を改正して重婚を認める事でリアルでの婚活も推し進める話し合いが進んでいるらしいわ」

「政府のフットワークが軽すぎませんか!? え? まじの話なんですか?」

 そんな話はネットにも流れてなかったと思うんだけど……。


「……あ、こっちはお父様に聞いた未発表の情報だったわ……しまったわね……しばらく内緒にしておいてね? お願いジャン君」

「え……あ、はい、分かりましたけど……」

 ……会長のお父さんって政府関係者? しかも結構重要な役職っぽいなぁ。


「まぁあれよね、少し前ならあり得ない法律だけど、ファンタジーに侵略された世界なら、こういう事もあるわよねぇ……しかも魔物が世界に現れた初期段階で謎ゲームをまったくやっていなかった偉い人達も世界の認識から消え去っている可能性が高いからねぇ……」

「ああ……なるほど……」

 魔物に倒されると世界から認識ごと消えちゃうっぽいから、政府の重要な役職に何故か空きがあったりしたらしいしなぁ……。


 それと、日本の人口って今は九千万人だっけ?

 専門家が言うには日本の交通機関の設備やら何やらが人口に見合っていないので、ゲームが世界に降って来る前は一億人以上いたのではって話があるんだけど……さすがに一千万人以上消えるって事はないと思うんだけどなぁ?

 ま、あーいうニュースとかに出て来る自称専門家の言う事は結構適当だからな、皆信じてないんだけどね。


 そうやって偉い人達が世界からある程度消えた事で、昔なら考えられない法律が現れようとしているって事みたいだね。


「重婚の話は正式発表されるまではここだけの話にしておきますね、会長」

「お願いねジャン君……ところでねジャン君」

 ん? 会長の雰囲気がちょっと変わったかな?

 さっきまでの雑談モードから……ちょいと真剣な表情になっている。


「どうしました?」

 もっとやばい政府関係の情報でも言おうとしているんだろうか? 怖いなぁ。


「ジャン君も女性型の魔物を所持しているわよね? もちろん……さっきの話の中みたいな手の出し方は……していないわよね?」

 うごご……会長から冷気が漂ってくるような気がする。

 さっきのって事は……女性型知的魔物相手にエッチな事をしているのかって意味だよね?


 ……ポヨンポヨンを観察する事はエッチな事に入るのだろうか……それが問題だ……。


「ジャン君? お返事は?」

 ヒッ! 会長の艶々ロングな髪の毛がワサワサと静電気を帯びたように動いている……妖怪かな?


 ……って、自分の手持ちのハーピーを顕現させて、後ろから風を起こさせているのか……芸が細かいな会長。


「俺は女性タイプの魔物に手を出していません!」

 だけであっては出していないからね! これは間違いじゃないよね!


「……ふむ……嘘はついてなさそうね、ふぅ……そうよね、ジャン君はペッタンな私が好きなのだものね、安心したわ!」

「……」

 相槌を打つ事は出来ないので沈黙で答えた俺である。


「それじゃまぁ、カードゲーで遊ぶ前に、ジャン君の手持ちの女性型魔物達からの証言を聞きましょうか」

「え、俺の魔物達と会話するんですか?」


「ええ、そうね」

「あーいや、俺もまだ会話した事がない相手だし、それは止めておいた方が……」

 サキュバスとかマーメイドとか上級水精霊とか、ポヨンポヨンな魔物が多いから、会長に会わせるのはまずい気がするのよなぁ。

 俺のポヨンポヨン好きな趣味が魔物達によってばらされるかもしれないし?


「大丈夫大丈夫、仮にジャン君が魔物に手を出していても絶対に怒らないから安心して?」

「あれ? 怒らないんですか?」

 さっきはすっごい冷たい表情で問いただしてきたのに?


「うん」

「そうですか」

 まぁ実際に手を出している訳じゃないし、絶対に怒らないというのなら、あの魔物達を顕現させてもいいか――

「もし手を出していたら、恋人である私にも同じ事をするまで帰らせないだけだから、安心して?」

「まったく安心できないのでは!?」


 だってさ、魔物達のポヨンポヨンと動く部分を見学する事がギルティだと会長に判定されてしまったらだよ?

 同じ事……つまり会長のポヨンポヨンを俺が見るまで終わらないという事で……。


「その場合、ない物は動かないので俺は一生帰れないのでは!?」

「ほぇ? ない物? なにが?」

 あ……しまった、つい率直な思いが口に出てしまった。

 会長も俺の言動の意味が分からず不思議そうな表情を浮かべている。


 まずいまずい、なんとか上手く話しの方向を変えないとな……。


 ……これから先の会話は、地雷撤去ゲームをする気持ちで臨むとしよう。







 ◇◇◇

 後書き

 新たな★の評価があったので、さらに一話投下します

 ◇◇◇

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