第20話 ご褒美

 なんとか会長からの疑惑を回避した俺なのだが。


 その後にやった謎カードゲームの対戦で、会長を一方的に負かしたのが良くなかったのか、会長が自主練をしたいとか言い出して、夕飯前には会長の謎空間から解放された。


 今は自分の部屋を模した謎空間内にいる。


『ごしゅじんさま~、また、おやつのお代わりと、この漫画の続き買っておいて~』

 そんな声を出したのは、ベッドの上でうつ伏せになりながら漫画を読んでいるサキュバスである。


 おやつは手の汚れないチョコスティックを出してあげていたんだが……もう全部食っちまったのか。


 水着のような衣装でベッドにうつ伏せ状態のサキュバスは、背中のコウモリみたいな羽をパタパタとさせ、黒くて細長い尻尾の先端のハートマーク部分をヒョコヒョコ動かし、そして細くて長い脚を曲げ、素足状態の足先をフラフラと交互に動かしている。


 お前は彼氏の家でくつろぐ彼女か何かか? と言いたいくらいのリラックス姿だな……。


 ちなみにスイカのごとくな胸部装甲は、うつ伏せ状態なのでベッドとの間で潰されている。

 非常に残念だ、というか自前のクッション扱いなのか? 潰されて痛くないのかとちょっと心配だ。


『マスターに何度も何度も要求するんじゃない! この、自堕落な淫魔めが……』

 ベッドのサキュバスに向けてそんな声をかけているのは、床に置いたクッションに正座で座っている黒騎士さんである。


 黒騎士なのに鎧も鎧下も全て脱ぎ去った状態の黒騎士さんは、ショートパンツにランニングシャツのみ、みたいな格好で……サキュバスと露出で負けていないってどういう事? と突っ込みを入れたい見た目をしている。


 ダークエルフ特有の長い耳とキラキラと輝く銀髪がなければ、一人暮らしのアパートでくつろぐ日焼け系女子大生といったイメージになるか?


 ちなみに彼女の前にあるローテーブルには、紅茶用の道具セットが広げられている。


 黒騎士さんは紅茶が好きらしいので、磁器製の紅茶セットというのを謎メニューで購入してあげたんだよね。

 英国っぽいイメージのアフタヌーンティーセットで、コーヒーポットに五つのコーヒーカップとソーサーがついているもので、数十万謎ポイントしたのだが、まぁ値段はどうでもいいか。

 後、電気ケトルとか砂糖とかミルクとか必要そうな諸々も一緒に購入して渡してある。


 黒騎士さんはサキュバスに向けて文句のようなものを投げかけつつも、喜々として紅茶を入れて楽しんでいる。

 お茶請けとして出した、フィナンシェとマドレーヌも好評のようだ。


 同じローテーブルを囲む俺達にも紅茶を入れてくれていて、飲んでみたら非常に美味しかった。

 黒騎士さんは紅茶を入れるのが得意なようだね。


主様あるじさま、それで、お決まりになりましたか?』

 俺と黒騎士と同じローテブルを囲んでいる上級水精霊が声をかけてきた。


 体もローマ風の服も全て水で出来ており、向こう側が透けてみえる姿の彼女は、水精霊がいくつか合体した存在である。

 元々はポワポワっとした美少女っぽい見た目の水精霊だったのだが、今はクール系美人といった方がしっくりする見た目になっている。


 まぁ彼女の問いかけに答えてあげないとな。


「うん、そうだな……『ディーネ』という名前はどうだろうか?」

 水精霊からウンディーネを思いつき、そこから少し削った名前だ。


『ありがとうございます主様、これから私はディーネと名乗りますね』

 笑顔を浮かべて返事するディーネである。


 そう、会長からの追求を上級水精霊のおかげで逃れる事が出来た俺は、何かご褒美で欲しい物はあるかって聞くために、上級水精霊を謎空間内の自室に召喚したのが始まりなんだよな。


 結局彼女の望みは名前を付けてほしいということだったのだが……その時に何でだかサキュバスと黒騎士から自分達も召喚してほしいという意思を感じられたんだよねぇ……。

 この仕様が普通なのかは知らんが、表に出たがる配下の声が主人に聞こえるって感じかねぇ?

 仕方ないのでサキュバスと黒騎士も召喚したんだ。


 俺が召喚していない時でも、彼女らはお互いに許可を出し合えば謎空間内で会話が出来るみたいなんだよな……ちなみに彼女達は女性系の魔物達だけでコミュニティを作っているみたいで、ゴブリンや半魚人に接続許可を出していないっぽい。


 黒騎士達には、俺が上級水精霊を呼び出して会長と会話させた事とかが全部筒抜けだった……。

 まぁそれならそれでと、この先黒騎士とかが会長と会う事もあるかもと思い、彼女らに口止めをしたら……まぁご褒美的な物を先渡しで欲しい、となった訳だ。


 そしてサキュバスからは娯楽品やお菓子が欲しいと言われ、黒騎士からは優雅なティーパーティがしたいというお願いをされたんだ。


 こうしてなし崩し的に彼女らと会話してみた結果なんだが……普通の知的生命体というか、ゲームのNPCとかではない、生々しい感情がある事を理解した。


 ……地球人が謎ゲーム内で魔物と結婚したって話も納得できるね。

 だって彼女らは普通の人間と知性が変わらないんだもの……。


 そんな存在達に、この謎能力の事とかを聞いてみたいとは思っているが、まずその前に言うべき事は……。


「紅茶を飲んだディーネの体や服が紅茶色に染まってきているんだが、大丈夫なのかそれ?」

 という事だった……。


 だって、黒騎士さんの出した紅茶を飲んだディーネの体が、紅茶色に染まってきているんだもん……。

 それ、大丈夫なの?






【後書き】

 お読みいただきありがとうございました


 ジャン君や会長や連ちゃんの戦いはこれからだ。

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世界にゲームが降って来た、そして俺は麻雀を選んだ。 戸川 八雲 @yakumo77

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