第12話 GW中の出来事 素人麻雀大会


 ふむ……下家の女性の捨て牌の河が異様だよな、初手数牌から切り出しているし、ピンズを一枚も切ってなかったのに、はくを鳴いたらピンズが一枚余ってきた。

 ……これはもうピンズと字牌は切れないよね?


 そして対面だ、青年な彼の河を見るに下家と似たような異様な捨て方だが、この人はソーズで染めているよな?

 チュンもカンされているし……これはもうソーズと字牌は切れないよな?


 そして最後にリーチの入った上家である中年なおっちゃんの親だが……マンズ以外は程よく切られていて……。


 ホンイツの可能性があるのは元より、ドラとカンドラがマンズである以上、マンズで親に放銃したら火傷じゃ済まないだろう。

 ……つまりマンズはもう切らない方がいいよな?


 ……。

 ……。


 あれ? 俺は何を切ったらいいんだ?

 だって安全牌ないよ?


 あっれぇ……。


 仕方がないので……俺は、そっと一枚の字牌を自分の河に捨てた。

 ほら、字牌ではなかなか当たるもんじゃないって、誰かが言ってた気がするし。


 それに、親以外に振っても、ホンイツならドラも無いだろうから、マンガンくらいまでだろうし……。


「「「ロンッ!」」」


 俺がその字牌を切った瞬間、上家と対面と下家が同時に同じ言葉を発した。

 ……全員同じ字牌の単騎まちかよ……。


 そして俺の点棒は全てなくなったのであった……。


 ……。

 ……。

 ――


「ほら、元気出しなさいってばジャン君」

 会長はそう言うと、椅子に座り込んで頭を伏せている俺の頭をナデナデと撫でてくる。

 いつもなら恥ずかしいと思ってすぐに頭を上げる俺なのだが……今はまださきほどの試合のショックが抜けていない。


 ……いやでも、いつまでも落ち込んでいる訳にもいかないな。

 俺は頭を上げると、俺の側に立っている会長に向けてなんとか笑顔を絞り出す。

 慰めてくれる会長の優しさには感謝しかないからね……。


「もう大丈夫です会長、勝負の勝ち負けは運もありますから」


 そうだ、の言う通りだ。

 麻雀は運の要素もかなりあるもんな!


「ジャン君は、素人麻雀大会参加者32人中32位だけどね」

 会長はそうやって俺にトドメを刺してくる……。


「ぐほっ! ……慰めてくれるのか揶揄うのかどっちかにしてください……」

「あっ! ごめんってば! いやほら……ジャン君が落ち込んでいる姿にね……ちょっとこう……キュンキュンって母性が刺激されちゃって、つい……ね?」

 母性? エスっ気の間違いでは?


「会長の辞書に載っている母性と、俺の知っている母性では意味が違うらしいです」

「そんな事ないわよ! 私の母性は四天王の中でも最強よ?」


 急にネタをぶっこんでこないでください。

 意味が違うと言っているのに最強って返してくるのはどうなんです?


「なるほど、つまり会長の四天王最弱は知性という事ですね?」

「失礼な! これでも大学の推薦とかほぼ決定しているんだからね? ジャン君の私の評価っていつも低いわよね……これはもう帰りがけに私の母性をたっぷり味あわせて分からせないといけないかもね……」


「母性って味があるものなんでしょうか?」

「勿論よ! 私のこの豊満な! ……ほう……まん……な……母性……で……ジャン君を……包み……込んで……味あわ……ゲフッ……」


「自分で言って自爆しないでくださいよ会長……」

「くっ……これはもうジャン君にラブなホテルで慰めて貰わないと立ち直れないわ! ……帰りがけに行きましょうか? 昨日ジャン君の家に遊びに行った時は結局は使わなかったし……」


 連ちゃんが恥ずかしがってたあれか……。


「……会長の四天王最弱は……安全性か羞恥心かもですね、さて、連ちゃんの試合の応援にいきましょうか」


 俺は会長の返事を待たず、椅子から立ち上がると……素人麻雀大会のにいる連ちゃんの応援に向かう。


 歩き始めた俺について来る会長が、何やら言っているが聞こえない事にしながら。


「そうそう私の弱点は安全性と羞恥心……って、誰が危険な香りのするセクシー美人だっていうのよ! ……ってちょっとジャン君? 上手い返しをしたのだから、ちゃんと聞いて? ちょっと? じゃんく~ん――」


 上手くないです会長。


 ……。

 ……。

 ――


 決勝卓には麻雀大会という名前に相応しくない面構えの人達が三人程いた。


 いかにも長年麻雀をやってきました的な爺さん婆さんと中年おっさんに混じる連ちゃんが一際目立っている……。


 というか。


「素人が後付けの片あがり三色を狙ったりしますかねぇ?」


 俺はすっごい小さい声で隣に立つ会長へと話しかける。

 決勝卓では参加者の気が散らないように、そしてイカサマがないようにと。

 カメラで撮影した4人の手牌や河を別部屋で確認しながら応援するスタイルだ。


 これはこの大会を主催している麻雀団体が、ネット放映にも強いノウハウを持っているから可能な事で。

 おかげでこの大会の参加者には、ネット麻雀から麻雀を始めたとかいう若い人達も結構いて。

 しかも点数計算が出来ない場合、運営側のプロが教えてくれるので、あがった時に点数が分からない人も大会に参加できる仕組みだ。


 そんな応援部屋には、大会の予選で負けた参加者も一杯残っているので、会長は小さな声で俺に返事してくる。


「レンちゃん以外の人達って、大会の予選では70符以上の点数でもすぐ自分で申告してたのよねぇ……」

「ああ……俺も50符くらいまでの点数なら分かるんですけど……それ以上になるとまだ点数表を見ないと自信ないです」


って何をもって素人とするのかが問題よね」

「確かに……麻雀を始めたばかりなのか……それとも、のなら素人という事なのか……」


 あ、その素人臭くない爺ちゃんが、不適な笑みを浮かべて親のリーチをかけてきた。

 うへぇ、先切りの牌が筋引っかけになっているのかよ……俺なら即放銃しているかもな。


「あ、レンちゃんが追っかけリーチしたわ、ドラドラあって三面待ちならいくわよね」

「ほんとだ、しかも相手の愚形の当たり牌が入り目で使い切れましたね……これはラッキー」


「……レンちゃん、一発でツモって……うわぁ……ウラウラも乗っているわね……」

「親被りをしたあの爺ちゃんは厳しそうですねぇ……」


 ……。


 お、今度は歴戦の婆ちゃんっぽい人が、河に3枚ずつ切れているリャンピンとサンピンを見て、イーピン、スーピンのリャンメン待ちでリーチをかけてる。


「明らかに普通なら使いにくいイーピンですもんねぇ……」


 俺は小さな声で溜息をつきながら会長に話しかける。


「……レンちゃんの手の中に当たり牌の両方ともが暗刻アンコであるものねぇ……一応まだ山に二枚あるかもだけど……あ……」


 レンちゃんがイーシャンテンからイーピンをカンし、嶺上からツモってきたスーピンもカンして、さらに嶺上から有効牌をツモってから、リーチをかけていた。


「……カンドラ……連ちゃんのイーピンが乗っていますね……」

「……そうね……まな板の上の鯉ってのはああいう事なのかしらね……」


 あ、連ちゃんにさっきのリーチした婆ちゃんが振り込んでる。


 この様子だと最後の一人もって……あらま?


 ……。

 ……。

 ――



「ううううう……悔しいです……」

 俺と腕を組んで歩く連ちゃんは、悔しそうにそう言葉を漏らす。


「あの優勝した人は強かったなぁ……、決勝で一回も振り込まなかったし、細かい点数を要所であがって……気づいたら連ちゃんよりほんのちょこっと上で勝つって」

「……元プロ雀士で、今は実家のお肉屋さんを経営している人だそうです……」


 なんでそんな情報を……決勝卓を囲んだ人達と雑談でもしたのかな?


「あらまぁ、今プロでないならおっけーってか……素人麻雀大会とはこれいかに? ってなもんだな、まぁそれでも二位はすごいよ連ちゃん、よく頑張ったな」


 俺は連ちゃんに腕を組まれてない方の手で、連ちゃんの頭でも撫でて労ってあげようとしたが……。


 そちらの手は会長に握られているので使えない事を忘れていた。


 会長は連ちゃんとの順位争いで負けたので、俺の手は握りつつもちょいと後ろの位置をキープして歩き、しかもバッテンマークのついたマスクをする事で、会話に参加できなくなっている。

 ……そのマスクは結構目立つので、どうにかしてほしい俺がいます。


 さて、これからカラオケボックスに行くんだっけ?


 ……会長はまたマラカスを振る係になるのだろうか?

 むーん……さすがに無言カラオケ二度目は会長が可哀想だし、皆で楽しく歌おうと後で連ちゃんに提案してみようかなぁ……。


 そんな俺達のGWはまだまだ続く。








◇◇◇

後書き

すっごい久しぶりに★の評価を貰ったので、また麻雀好きが一人いたようです。

という事で一話投下しました

今回は麻雀をちゃんと? やっています。

◇◇◇


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