地獄に咲いた美しすぎる死神の選択

現在公開されている第三章女帝の行方まで拝読したレビューになります。

人身売買を生業とする集落に生まれ落ちた少年・キングの凄惨な生い立ちから始まる衝撃的な本作。目を背けたくなるほど生々しい描写は、強い酒をロックで一気飲みして喉が焼けるような感覚ににている。それと同時に、砂糖たっぷりのチョコレートを胃もたれするほど食べたような依存的な多幸感も感じられる、まさに劇薬。

死神の力を強奪して人身売買から子どもたちを救うキングはまさにダークヒーローですが、一方で学校や家族など、ありふれた日常に憧れてそれを逆手に取られてしまうような十五歳の純真な脆さもまた、彼の魅力です。
そんなキングの周りのキャラクターたちもまた、悲惨な生い立ちを抱えながら人の命が等しく軽い世界の中で必死に抗っています。この人間ドラマも見どころです。

一寸の隙もなく綴られる文章は、触れたら血が出てしまいそうなほど洗練されています。死神と特別顧客の存在が歴史のピースと繋ぎ合わさった時のゾクゾクは圧巻でした。戦闘も無駄なくスピーディーで秀逸。もはや文章力の暴力です(褒めてる)。

この刺激的な物語を読む上で私が注目していただきたいのは、「家族の形」です。物語には様々な家族が出てきます。キングを虐げていた家族から始まり、非道徳的な血の繋がりのある家族、血が繋がっていなくても相手の幸せを願える親子、共依存で壊れてしまった兄妹……。
様々な家族の形が描かれた先に、美しく悲しい兄弟が辿り着く選択に想いを馳せながら、次の更新を待ちたいと思います。

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