テンプレ異世界物はこう書くべし。実力派による迷宮踏破陰謀劇

85話まで読ませていただきました。
迷宮探索の冒険者を主人公に、初級スキルのまま成長限界を迎えた主人公がパーティを追放、一人で奮闘するうちにチート的能力に目覚めて…という王道的テンプレから始まる物語ですが、開始当初はまだ少年だった主人公がソロ探索者として大人に成長するまではプロローグ的な下りで、迷宮からモンスターがあふれ出すスタンピード現象が発生して以降いよいよ本編、といったところでしょうか。
その惨事をきっかけに明らかになった人為的にスタンピードを起こそうという何者かの陰謀、その敵をあぶりだすための迷宮未踏破層の攻略に主人公も参加することになって……という風に、単に迷宮踏破してざまぁで無双では終わらない、色々な人物の思惑が錯綜する複雑な展開が読み応えがあったように思います。
主人公の能力も決して都合の良いチートスキルではなく、本来はさほど必要性が無いゆえに皆が鍛えない部分を研鑽した結果、という理由付けにも無理がなく、バトルシーンも単なる力押しではなくスキルやオーラ操作をどのように組み合わせて相手と戦うのかというある種のゲーム性があって、その駆け引きの要素が面白いと感じました。

そういったお堅い描写にとどまらず、主人公が武器を自作するうちに名のある木剣職人になって…というギャグのような下りも、硬軟の書き分けが上手い上に単なる寄り道ではなく設定的にちゃんと必然性があったり、下品になりすぎない一歩手前できっちり笑いを取ってくる下ネタやお色気にも巧みさを感じました。

何より、近年のなろう系異世界ファンタジー物で一般的な一人称・三人称混在視点で描かれる本文ですが、人称を切り替えても違和感が少ないのはやはり大元の文章力がしっかりしているからだと思います。
一人称の方が初心者には書きやすい、というような書き手都合ではなく同じバトルシーンを複数視点で描写して客観的に解説したりと、ちゃんと必然性のある記述になっていたように思います。

黒幕視点の回など、もしかしたら世界の成り立ちなどファンタジーに留まらずSFな方向にも行きそうな気配もあり、そのあたりの伏線の貼り方も含め、初心者が勢いで書いた作品にはない、作り込みの確かな作品だと感じました。
続きも楽しみにしております。

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