もしや、プロ作家さまの所業?! 重厚かつロマン溢れる中華風幻想譚!!

最新「三之四」まで読ませていただきました。
この作品に巡り合えたことをとても嬉しく思います。

架空の世界が舞台のお話なのですが、設定がずば抜けています!! 地理の説明や風景の描写など、どこを切っても隙がない。
なので読み始めるとストーリーにスッと入り込むことができて、作者さまの世界に読み手の私も心地よく浸かることができます。

文中の比喩表現なども素晴らしかったです。
例えば
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変怪はまるで、激流そのものであった。変化が身体を震わせる度に氾濫する水が地を浸食し、くわと大きな口を開けば嵐以上の強風が辺りを薙ぎ払う。むしろ変怪がのたうつからこその嵐なのではないかとも思う。
(二之三)
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上記の個所を読んだときは幻想的な情景が脳裡にぶわーっと広がりました。

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並んで立つと、小柄な女が巨大な黒い影を背負っているようにしか見えない。
(三之二)
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こちらもシンプルな表現ながら、大男・闇充と蛤の対比がとても鮮やかです。
くどくないのにどこか斬新で、読んでいて思わず唸る名文だと思いました。


世は眠り続ける神獣の夢の中である、と伝わっている中華風の世界を舞台に、いくつかの物語がオムニバスのように展開。
第一話は、王家の少年が摂政のような立場である姉の振る舞いに悩み、山奥の賢人を訪ねていくお話。
賢人は神獣の類と思われます。
姉は少年の代わりに統治を担うしっかり者だが、夜な夜な情夫を引き入れ、自ら産んだ子を王にしようとしている節があります。
悩む少年に庵の主が語った答えは、とてもスケールが大きくて、ちっぽけな人の存在そのものを包み込むようなものだと感じました。

第二話。私が好きな展開です。
商人の呂酸は、知人の絵師・揖申が描いた奇妙な絵を売り出します。その絵を見た裕福な女性・多嘉螺は、書かれているのが神獣の類だと推測。
「もっと詳細な絵が欲しい」そして「揖申を連れてきて、絵に描いたものの名前を聞かせよ」と呂酸に命じます。
名前がついて……というか、人に認知されることでより具体的な存在になる、というのは日本の妖怪に通づるところがあるなぁと思いました。

第三話は、呂酸が訪れた先で出会った巨躯の異国人・闇充と、彼の面倒を見ている女性・蛤のお話。
闇充の通訳となったことで、住んでいるコミュニティーから仲間外れにされなくなっていた蛤。
実は闇充は蛤がいなくても平気なくらい言葉をマスターしていたが、それが露見すると蛤は必要のない存在となってしまい、また厄介者扱いされてしまう。
だからずっと言葉が通じないふりをしているんですが、とある事件が起こって真実が明るみに出ます。
最初は『まるで童子のよう(三之二)』な闇充を蛤が保護している構図だったのに、終盤では蛤が『童のように泣きじゃく(三之三)』っていて、立ち位置がガラリと逆転したのがとても印象的。
また、闇充と蛤の絆を感じて心が温かくなりました。

中華風なのもあり、何度読み返したか分からない酒見賢一先生の『後宮小説』を彷彿とさせます。応援コメントの返信によると、作者さまも同作をお読みになっているとのことで、得心いたしました。

投稿サイトを飛び出してベストセラーになっていてもおかしくない一作だと思います。
読ませていただきありがとうございました!

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