「正体は」
──最近、おかしな事が起こる。
いつものように図書室で紅茶を飲む。するとたちまち睡魔に襲われ、起きたときには独特のにおいがする液体がこびり付いているのだ。
今日で五度目。最初に異変が起こったのは二ヶ月前で、特に不可思議な眠気等は無かったので『味を占めた』とか、そんな具合だろう。
私だって二・三回目まではまさか男性のあの液だとは信じたくもなかったし別の可能性に賭けていたのだけど。一体誰がどうやって、と考える方が真実に近付けるということに気が付いた。
男性というのは大前提として、使用人の誰か、ということになる。
私が平民だから、
侮辱される筋合いはないし、それにしたって少々度が過ぎるのではないか。
眠気が襲うときは甘い花の
茶葉自体に何か入っているのだろうか?
それともカップか。
そして何処から侵入してきているのか。
隠し扉や抜け道があるのかと探してみたが見当たらず。こうなったら直接文句を言う他ない。
「! 花の香り……!」
そう考えていた矢先、カップに口をつける手前。ふわりと香った。
危ない危ない、と直様バルコニーの植木へ紅茶を捨てる。間隔も次第に短くなっているような。
ともあれ眠るふりをしていればいつかやって来るだろう。
出来るだけ自然に、いつもの格好で、眠る私にどんな事をしているのか。
(その
ガチャリ──、
「──っ!」
たまに己の肝が怖くなる。
私としたことがこんな状況であるにも関わらず本気で寝てしまっていた。
幸い鍵を開ける音で目が覚めたが、まさか正面から堂々と入ってきていたとは。ピッキングの能力でも備わっているのか。そういう使用人は他の部屋で盗みを働いている可能性が高い。
この西館の図書室にもその目的で入ったが、たまたま私が此処で寝ていたと。
なくもない話だ。確かに界隈では貴重そうな本である。
コツ、コツ、とソールの音が深夜の図書室に響き、私は早鐘を打つ心臓をなんとか落ち着ける。
人が近くに来た僅かな風が肌を撫で、同時に石鹸の香りが鼻を
(触ってきた時点でぶっ飛ばしてやるんだから……)
しかし待てど暮らせどアクションがない。
どれくらい経った頃だろう。長い時間に思えるだけで実際にはそれほど経過していないのかもしれない。
衣服の擦れる音が聴こえ、はぁはぁ、と吐息が漏れている。
見ている、だけなのだろうか。
私の身体であんなコトやこんなコトをしていると思ったのだが。
漏れる吐息も荒くなり、一向に触れられぬ時間に耐えきれなくなった私はついに声を発した。
「誰!? ッ! え……おにい、様……?」
「っな、んで……お前……」
時が止まった。
脳が理解するのに、十秒は掛かったと思う。
足元に佇む兄。月が雲で隠れ、雄の部分が暗闇に紛れる。
「ま、まさか、お兄様が……? お兄様が私に……!?」
「なん、の、話か……」
「ッ誤魔化さないでよ!! 私に掛けてたんでしょう!? なんで、なんでそんな事……!」
「っ……」
黙りこくる男はただ私の脚を見つめている。
何とか言いなさいよ、と責めてみるも言葉が出てこないようだ。
「はっ! 何なの……!? 普段あれだけ侮辱しておいて私なんかにみっともなく反応するんだ!? へぇ!?」
今までの御返しをするかのように、グ、と足の指で其処を弄ぶと、反射的に脈打つ。
眉を歪め恥辱に耐える
「あッ……くッ……!」
「若くして侯爵家を背負ったお兄様がねぇ。まさか平民の女で抜いていたなんて。女なら周りに腐るほど居るくせに! 最後ぐらい静かにさせてって言ったのに……! どういった嫌がらせなの……!? ねぇお兄様。何とか言ったらどうなんですか!?」
より踏みつけると、緑眼がギラリと私を睨んだ。
すると足首を掴まれグイと持ち上げられる。兄は私の上に覆い被さり、今にも首を絞めそうな勢いだった。
(う……やりすぎたわ……)
「お前が悪いんだ! お前が悪い!!」
「は!? 人のせいにしないでよ……!」
実に真剣な瞳。
腰を抱えられ引き寄せられて、抵抗しようと手を出したら今度は手首を掴まれた。レースのショーツには兄のものが布越しに当てられ、脈打っているのが感じられる。
「!? お兄様……! なにを……!?」
「止めろ!! 俺を兄と呼ぶな……!!」
「はあ!?」
「俺は、俺はお前の兄じゃない……! お前は! お前は──!!」
「じゃあなんて呼べばいいの!? ウォルター!? そう呼べばいいの!?」
「ッ、名も呼ぶな!」
「なんなの本当に意味が分からないわ!!」
「…………分からなくていい。お前は、黙って犯されてろ」
「っ……どういう、あっ! ヤダ何して……!」
兄は己のタイを緩めると、そのままするりと外し私の手首を縛ったのだ。
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