「硝子細工」
「ヤダ! 外してよ……!」
「叫んだところでどうせ誰も来やしない」
見下ろす瞳が憂いに満ちている。
抵抗しようも腕の内側をぴたりと合わせた縛られ方では、振り下ろしたところで然程衝撃を与えられない。
そもそも名のある名門貴族の長男として生まれ、己の身を護るために鍛えた相手だ。私の方が先に体力を消耗してしまう。
「はあっ……はっ……本気なの……!?」
「煩い、黙れ」
「そんな、っ、あッ、どこ触ってんのよ……!」
この屋敷に来なければ袖を通すこともなかったであろうシルクの寝衣。貴族らしいなめらかな指先が身体を滑り、兄の手より少しだけ溢れる胸を優しく包み込んだ。
「あんっ」
反射的に声が出て、私の反応を確かめると、より反応見たさに弄ぶ。漏れ出そうな声を唇を噛んで必死に押し殺し、見下す緑眼を睨んだ。つい先程まで私が恥辱を与えていたのに。今度は己が恥辱に耐えるとは。
瞳の奥に焼き付けるかの如く見つめていた兄は、縛られた両手を私の頭上に押し退けるとやけに整った顔が胸元へと近付く。優しく、柔らかに、私を扱う。
あんなに酷い言葉を浴びせてこんな無理矢理な方法を取るのに、どうして硝子細工よりも繊細に扱うのか。
頭も心も混乱する。
たいした代物でもないのに。もっと明ら様に誘っている女がこの前のパーティーにだって来ていたじゃないか。何故、何故私なんだ。放っておいてくれれば良いのに。どうせ逃げられないのだ。いっその事ひと思いに突いてくれ。
「もう……するならはやく……終わらせてよ……っ」
気持ちいい、なんて言葉は絶対に言いたくない。けれど執拗に準備されたからか、身体に電気が走った。
奥にコツンと当たると、兄は顔をしかめる。
「お前……、初めてじゃないのか……」
「そんなのっ、アンタの妹とは違うのよっ……恋人のひとりやふたり……!」
「ッ、クソっ、クソっ! ああそうか。なら優しくする必要もないよな……!」
「は? ッあ! や! ちょっと……!」
今までのが嘘のように激しく快感を貪る兄。
私が“初めて”だと思ってあんなに、硝子細工のように扱ったのか?
(そんなの、そんなのまるで……)
「ひあ! やだ! だめっ!」
「クッ……! う、あ……!」
どういうことか。奥に注いでも注いでも勢いは衰えず、何度繰り返されただろう。もう、限界だった。
「もっ……やだっ、ほんとにだめっ……むりッ……!」
「ああっ、ミア! ミアっ……!」
二度目からは私の名前しか呼ばなくなり、そしてまた果てた。奥で兄を受け止めると、ふ──、と意識を失ってしまったのだ。
──次に目覚めたときはベッドの上だった。
(あ……れ……? 夢……)
そう思いたかったが腰に響く痛みでやはり現実だったかと思い知らされる。
汚れていた寝衣も着替えさせられている。
此処まで運んでそれでわざわざ着替えさせたというのか。あの兄が?
意味が分からない。本当に意味が分からない。
「なんなのよ……もう……」
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