「もうとっくに貴方のものなのに」
「んぁ、ちょ、ウォルター……! やめ、やめなさいって……!」
「どうして。今日は沢山の人の目に触れたから消毒しないと」
「はあ? 何言って、あんっ!」
「可愛いよミア、可愛いもっと聞きたい聞かせて」
嬉しそうな表情で独占欲丸出しで、全身隈なく口付けしてゆくウォルター。
瞼に、頬に、耳に、首筋、指先、足の裏にまで。
自分で言うのも何だが、一体私の何がそんなに良いのだろう。それを本人に聞くと、きっと夜が明けてしまうから聞きはしない。
「ちょっと! 馬鹿っ! 何処にまでキスしてんのよっ! 汚いでしょ!?」
「ミアに汚い場所なんてあるものか」
「あーーハイハイそうですねそうでした。ねぇ、ていうか明日はウェディングドレス着るんでしょう? 痕が残ったらどうするのよ」
「大丈夫。見える場所には痕は付けない」
「何も大丈夫ではない」
「ふふっ」
何が面白いんだか。
ウォルターは心底幸せそうに私の胸に顔を
ついこの間まで童貞だったくせに。だから女の
(って本人に言うとまた、私のだから、とか、私に捧げるために、とか返ってくるんでしょうね。大体予想がついちゃうわ)
「ね、ミア……」
「なあに?」
「ステファンに聞いてから、ずっと聞けなかったんだけど……」
これが侯爵家当主とは思えぬ上目遣い。
不安そうな声で、ウォルターは口を開く。
「ステファン?」
「うん……ミアは、将来教師になるのが夢だったんだってね……」
「ああ。まぁ……そうね」
そう言われて、なんとなく想像はついた。きっと彼のことだから責任を感じているのだ。
もう過去の事だから気にしなくて良いのよ、と言ってみるも、私が大好きなウォルターのことだ、納得させても気に病むのだろう。
「まあ? 確かに? 最初の頃はさ。教員試験を諦めてこの侯爵家を出あたとは働く場所どうしようとか、子供達に教えたいこと一杯あったなぁとか、夢と自由な青春時代を奪っておいてどうしてそんな酷いこと言えるのか、とか。思ってたけど」
「ッ、本当にすまない……俺達はミアの人生を奪ったんだ。身勝手な執着で、醜い虚栄心で傷付けた……!」
情けない涙。
全く。どうしてあんなに酷い態度だったのかしらね。気持ちに正直じゃない人って本当に嫌いなのよ。ウォルターはよくここまで成長出来たものだわ。
「ウォルター、聞いて。言ったでしょう? 答えは私自身が選んだの」
「でも……! 立場的に逆らえなかったじゃないか……!」
「はぁ……でもじゃないの。何なの、烏滸がましい。教員試験を諦めたのも、侯爵家に居候するって決めたのも、ウォルターと結婚するって決めたのも、結局は全部わたしの意志よ。貴男のお父さんは優しい人でしょう?」
「あぁ……ミアには特に……」
「お義父さんが生きている内にだって逃げようと思えばいくらでも逃げれたの。でも私は居座った。別の人と結婚したって良かったのに、私はウォルターを選んだ。自分の意志でね? 自分の人生はいつだって自分で決めるのよ。元あった道を塞がれたってまた別の道を探せばいい、壁を越える方法だっていくらでもあるわ。回り道でも、飛び越えるでも、梯子を掛けるなり壊したって良いんだから」
「ッ……ミア、……やっぱり君は教師が向いてるよ」
「えぇそうね。私もそう思う」
はらり流れる涙が胸の谷間を伝ってゆく。
頭を優しく撫でてやると、安心したように吐息が漏れた。
「それにね、ウォルター。マクロン侯爵領には孤児院があるでしょう? 金銭面での寄付はしていれど教育面ではイマイチよね。私、そこを狙ってるのよ」
「! ミア! さすが俺のミア……! ああミア、何処までも輝く女性なんだね君は……」
「毎度のことだけど大袈裟ね」
そんなことないと言って、伝っていった涙の筋をぺろりと舐め取る。
次第にちゅうちゅうと強く吸い付いてきて、胸には痕がいくつも付いているではないか。
「こらウォルター……! 本当に痕つけてどうするのよ……!」
「大丈夫。此処は見えないから」
「何も大丈夫ではないっ!」
「ふふっ」
「あーーもう……」
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