番外編 面倒見の良いカレン
「あの男が気になる?」
ミアの旦那様が私に言った。
イケメンで金持ちで気が利くけど、すっごく粘着質。
親友のミアを盲目的に愛する姿には安心もできるけど、同時に恐くもある。
こんな人に好かれるのは、私はちょっと勘弁かな。
「え? あたしそんなに見てました? 彼のこと……。まぁ……気になるっていう点では合ってますけど。たぶん、あの人お酒飲めないんだと思います」
「さすが看護師」
「へ? 何で知って……」
「別にミアからは教えてもらってないよ。ミアの好きなものは全部知りたいだけだから」
「うわ。ウォルターさんちょーこわーい」
「そう本人に言えちゃうところがミアの友人って感じだね。話すのが楽で良いよ」
「それ褒めてるんですかぁ?」
「もちろん!」
──「ウォルター! ちょっとこっち来て!」
「! ミアが呼んでるから行くね」
本当、今までのミアの彼氏とは比べ物にならないぐらい強烈な男ね。
まさかあのミアが貴族の仲間入りを果たすなんて。
明日のウェディングドレス、楽しみだな。
そんな風に一度は気を散らすのだけど、やはりいつの間にか目に入ってしまう。
無理してお酒を呑んでいるあの男。酒は飲んでも呑まれるなって言葉知らないのかしら。
格好からして貴族みたいだけれど。貴族って上から目線で腹が立つのよね。身分がそんなに大事ですか?って感じ。
だから無視してやろうと思ったんだけど、職業柄、見てみぬふりは出来なかった。だってそれで死なれちゃ困るもの。
「ね、貴男。ちょっと飲み過ぎじゃない?」
「えっ、と。失礼ですがレディはどの家の……」
「あー、新婦のご友人でしょう? 平民の。バーベナ卿はお知り合いでないんですか? 貴男もつい最近まで平民だったじゃないですか」
「え……? あぁ……いえ……領が違いますので……」
「彼女、貴男を誘ってるみたいですよ? 良いですなぁ。新興貴族は自由で」
「いやはや。誠に。由緒正しき家系を守るというのは──」
どうやら私が話し掛けた相手は新興貴族のようで、周りにいた男性たちの苛つく上から目線が私を余計に苛立たせた。
そうやって医者の言うことを聞かないから退院が遅くなるのよ、全く。
「あら。由緒正しき家系を守るためって言うんなら白衣の天使に手を出さないで下さいな。ねっ? 患者様?」
「は? レディは何を……あ”っ!?」
「ラトウェル卿のお知り合いですか?」
「え!? いやっ! そのっ、知り合いというより! 骨折してしまったときにね! 病院にいた看護師で……!」
「あぁ看護師……そうなんですか。人は見かけによりませんね。でも何をそんなに慌てていらっしゃるんです?」
「いやぁ〜! あはは! まさか新婦のご友人だとは思っていなくて驚いただけですよ……! ほらバーベナ卿も……! 看護師の方がわざわざ心配して下さっているんだから少し休んできたらどうだね!?」
「は、はぁ……ではお言葉に甘えて……」
私の
腕を折ったぐらいでピーピー泣きやがって。
「ふんっ。自分のナニぐらい自分で
「え……彼女、なんて……?」
「いやぁーー! 実に良いパーティーだな! こうやって身分の差を超えてみるのも悪く無い……!」
焦って取り繕う姿を鼻で笑って、「行きましょ」と彼の手を取った。やけに体温が熱い。
ブロンドのミディアムヘアをダスティブルーのサテンリボンでひとつに結んで、真っ白なシワの無いシャツと、美しく仕立てられたジャケット。
「そこに座って!」
「あ、あぁ……」
「取り敢えず水飲んで! 3杯!」
「え、」
言われるがまま水を3杯飲み干し、はぁ、と溜息。
気怠そうに髪留めのリボンを解きグシャグシャと頭を掻くと、「あのさあ」と一言。
「オレこれでも仕事中だからさ、困るんだよね。邪魔しないで欲しいんだけど」
「あらあら。それが本性?」
「やっと貴族の地位を賜ったんだからここで止まるわけにはいかないわけよ」
「ふぅ〜ん? だからぁ?」
軽く受け流すと彼は苛つきを隠しもせず「女にはどーせ分かんねー話だよ!」と投げ捨てる。つい先刻の私と貴族とのやり取りを見ていなかったのかしら。そう言われて黙ってる女じゃないんだけど。
「どーせ女には、ねぇ……。自分の限界も知らずに突っ走って死んだら意味無くない? まあ? どーせ新興貴族なんかに言ったって分からないんでしょーけど??」
「なっ、何だよ……。限界超えてみて見えるものもあんだろ……」
「危機管理能力備えてから冒険に出てくんない? 診なきゃいけないこっちの身にもなれっつーの。酒が苦手なら水を挟め! それすら出来ないなら何も飲むな!」
「んだよ偉そうに……!」
「つーーか! あんた新興貴族なんでしょ!? 実力でその地位を賜ったんじゃないの!? なら無理して話合わせて無理して酒なんか飲まなくても実力で何とか出来るんじゃないの!?」
「ッ、そ、れは……」
「むしろ馬鹿にしてる奴らを実力でギャフンと言わせるぐらいの度胸を持ちなさいよ! 貴族になった途端顔色を窺うなんてダッサ!」
彼は驚いた表情を見せて、グシャグシャと頭を掻いて黙ってしまった。
それからただ一言、「みず」と飲み干したグラスをもう一度差し出してきたのだった。
何故か──、あぁ私はこの人の面倒をこれからもみるんだな、って思ったのだ。
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