第5話――仕切り直し

 とりあえず記憶の整理によって現状を大体把握できた頃、再び扉がノックされた。「どうぞー」と声をかけると、さっき出て行った銀髪メイドが顔を覗かせ、俺の様子を見てホッと息を吐いた。


「どうやら落ち着かれたようですね。念のためにもう一度医者をお呼びしようかと思ったのですが」

「心配かけてすまんね。思い出したわ、ここってダンナの家だよな」


 思いっきり前世おっさんのノリで返事してしまい、物凄い目で凝視されてしまったので慌てて咳払いで誤魔化す。やべー、お嬢様口調ってどんなだったかな……えーっと。


「オホホホホ、ごめんあそばせ。起きたばかりでまだ頭がはっきりしていなくて……旦那様はなんと?」

「……着替え終わったら食堂に来るようにとの仰せです。今からわたくしがお手伝いいたしますので」

「よろしくてよ」


 つ、疲れる……オネェになった気分だ。よく考えたら、普通に敬語でよくね?


 俺を三面鏡の前に座らせると、メイドはやや乱暴な手つきで俺の髪を梳き始めた。何本かはブチブチと櫛に持ってかれている。


「いででででっ! もっと優しく!」

「そうは参りません。寝たきりの間に御髪がぐしゃぐしゃに絡まってしまっていますので。旦那様にお会いになる前に、少しでも! 見苦しくないよう仕上げませんと」


 こいつ絶対俺の事嫌いだろ! ……まあ、主人と結婚する相手がやらかした事を思えばしゃーないか。いや、それにしても痛いぞ。いっそバッサリ切って……何なら坊主でもいいくらいだ。

 その後もぐいぐい髪を引っ張られて涙目になった俺だが、やたら凝った髪型にされた自分を鏡で見た時は感心した。


「へぇー、可愛いじゃん」

「恐れ入ります」

「それで、えーっと……あんたは」

「わたくしですか? クリオラと申します」


 クリオラさんね。記憶にはないから、最初から公爵家のメイドだったのだろう。それにしても美人だ……当たりはきついがそれだけで許せちゃうぞ。


 着ていく服も髪型に合わせて選ばれる。しかしコルセットは死ぬかと思った。あそこまでギュウギュウに締め上げずとも、ちょっとくらいポチャっててもよくない?

 ぐったりしつつも支度を終えて部屋を出ると、先ほどのようにオンヌが待機していた。妹が脅された上に、にっくきチャーミンの嫁入りにまでついてかなきゃならんとは、こいつも大変だよな。


「待っててくれたんだ、ですね? ありがとうございます」

「!」


 声をかけると、ビクリとでかい図体を縮こませたオンヌは、居心地悪そうに口を開いた。


「奥様、この度は誠に申し訳ございませんでした」

「え、何が?」


 首を傾げる俺に、クリオラさんはオンヌが旦那様の代弁を勝手に行い、奥方を乱暴に扱った事を気に病んでいると説明する。なんだ、そんな事……確かチャーミン父の騎士団長命令っつってたし、ダンナも嫌ってたから咎められないと思うよ、うん。


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