第7話――チャーミンの処遇【後編】

「では、離婚した後の処遇は?」

「騎士団長が大変責任を感じていてな。当初は一家全員自害するとまで怒り狂っておられたが、何とか宥めて離縁後に貴族籍を剥奪し、市井に下る事が決まった。君には心底失望していて、既に実質の勘当だ。団長職と伯爵家も君の兄君に譲って隠居された」


 呆れてものが言えない。チャーミンの暴走により、実家が破滅するほど父を追いつめてしまった。自分一人が庶民になるのはともかく、申し訳ない事をしたな……


「承知、いたしました」

「なんだ、今更しおらしくして同情を引く気か?」


 アメトリンがその手には乗らないとせせら笑うが、それどころじゃない。己の罪に反省する間もなく、処遇の続きが告げられる。


「生活は公爵邸の離れを使ってもらう。こちら側から呼んだ場合を除き、本館へは近付くな。

身の回りの世話はクリオラが、護衛は団長が寄越したガーラックが務める。移動する時や備品の取り寄せなどは必ず二人の許可を取るように。言っておくが、クリオラは元々公爵家の暗殺部隊に所属している。くれぐれも不審な行動は取らない事をお勧めする」

「承知いたしました」


 暗殺部隊って何!? 嫌われてるからって、普通嫌ってる相手を護衛させる!? いやむしろ、少しでも粗があったら始末するよう、アメトリンから命令を受けてたのかも。おー怖……暗殺者と俺に恨みがある騎士が監視者とか俺、気が休まる時あんのかね。

 ガクブルしながらも壊れた人形のように了承し続ける俺に、不気味なものを見る目を向けるアメトリン。とりあえずハイハイ頭を下げてやり過ごす、必殺・社会人の処世術だ。


「以上でよろしかったでしょうか?」

「あ、ああ……他には、城と神殿への立ち入りが禁止されている。今まで『緑竜の巫女』には、クリスタル神殿に赴き神託を告げる役目があったが、君の神託がハッタリだろう。神殿としても、このまま巫女として罪人を持ち上げるなら権威に関わるからな」


 それもバレてたか……今では本当にグリンドの声も聞こえるんだけど。婚約者さんも隣国の神官長の家系だし、彼女に障害未遂起こすような危険人物を立ち入らせるわけにはいかないか。


【構わぬ。我は関与しておらぬ故、そなたが行こうが行くまいが大して変わらぬ】


 うわーお、よりによって御本尊が神殿の存在否定しちゃったよ。正直、ドラゴンを祀る神殿には浪漫を感じるから興味はあったんだけど……しゃーないか。

 溜息を吐いた俺をどう捉えたのか、アメトリンは愉快そうに口元を歪めて言い放つ。


「『緑竜の巫女』から落ちぶれた現状は全て、君の自業自得だ。せいぜい今から庶民になった時の生活訓練でも始めておくんだな」

「はい、何から何までお手数おかけいたします」

「チッ、最初からそうやって大人しくしておけば……もういい、私の視界から消えろ」


 アメトリンはチャーミンに屈辱を与えたいんだろうけど、俺としては夜のお相手もないのに三食昼寝付きというのはだいぶおいしい。貴族でなくなるのも二年猶予があるので、その間にこの世界の事情を把握できる。おっさんだった記憶を持ちながら美少女として生きる事になってどうしようかと思ったが、案外悪くないんじゃないか?


 何より、ここには俺を殺した太陽光発電がないじゃないか!


 一向に堪えた様子のない俺を胡散臭そうに見るアメトリンに構わず、俺は人生に光明を見出した事でスキップしそうな勢いで退室した。


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