第8話――新しい住まい
食堂を出た俺たちは、さっそく手ぶらで離れに向かう事になった。何故、何も持って行かないのかって? 必要なものはこちらで用意しますって何も持たせてもらえずに公爵家に連れて来られたからだよ。チャーミンも実家の私物は後から届けさせようと思ってたみたいだけど、恐らく処分されてるだろうな……
部屋中に飾られた王子の肖像画に、王子宛ての手紙、電波バリバリの日記帳……薬関係は証拠隠滅のために借家に移してあるけど……取りに行けないからなー。
「こちらが離れになります」
「ほぇー……」
今日からここに住むと言われ、建物を見上げた俺の口からは気の抜けた声しか出なかった。そりゃあ、本宅のが十倍はでかいよ? けど前世の俺からすれば充分御立派な一軒家だ。何せボロアパートにしか住めないような安月給だったからな。
エントランスは吹き抜けで、天井には大空を舞うドラゴンの絵が迫力満点に描かれている。その他、階段の手摺りやドアノブなど至るところにドラゴンを模った細工が施されていて、嫁と言うより中二病が好みそうな仕様になっていた。
「
「侯爵家以上の地位になりますと、屋敷に小さな礼拝堂がつくのが普通ですから、全体的に雰囲気もそれに合わせているのです」
家に礼拝堂!? 前世ではそれほど信心深くもなかったからピンとこないが、神棚みたいな感覚なんだろうか。騎士団長の家系はその辺無骨なんで、気にしてないんだよなあ……グリンドも、祈りなどどこででも好きにしろってスタンスだし。
一階端のドアを開けると、本当に狭いスペースに竜神像が飾られていた。礼拝堂と言うより懺悔室だな、こりゃ。本宅に置かないあたり、アメトリンも大して信じてないんじゃん。
一階には他にも談話室、使用人室、本宅よりずっと小規模な食堂とキッチン、それに地下に続く扉があった。
「この下は?」
「地下室はワインセラーになっております」
ワインセラー!! 金持ちって感じだな。でもこんなにいらねぇだろ。
「本宅にもあるなら、数本だけ残してそちらに移す事はできませんか?」
「……旦那様にお伺いしておきます」
「はい、よろしく」
地下室ゲット!! いいねー、秘密基地作りは男の浪漫。胸が躍るぜ! ……もっとも、監視付きだから怪しい動きはできんが。
続いて二階。ここは全部客室だった。日射し以外はどこも判子押したように同じ間取り……俺の部屋は適当に選ぶか。二階の特徴は窓と窓の間に王族の肖像画が飾られている事だ。アメトリンは王弟だからな……奴は王国一のイケメンらしいが、どいつもこいつも髪と目が見事に紫色の美形ばかり。王族の遺伝子、濃ゆっ!
「殿下と旦那様の肖像画はどうされますか?」
どうされますかって言われても……ストーカーやってた頃みたいに部屋に飾ってもいいと? 何が悲しくて起き抜けにイケメンの面と顔合わせにゃならんの、お断りだ。
「いえ、このままで」
「……そうですか」
信じられないような顔をするクリオラさんを置いて、俺は客室の一つのドアを開けた。
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