第9話――夕食探索

 ぐううぅぅ……


 ベッドに横になっていると、腹の虫が鳴り響く。


「腹減った……」


 そろそろ飯時だが、誰も呼びに来ない。本宅の使用人が持ってくると聞いているのだが……

 待ち切れずにベッドから飛び起きてドアを開けると、逃亡防止のためかオンヌがすぐそばで見張りをしていた。心臓止まりかけたわ! 別に逃げ出しゃしねぇって。


「奥様、どちらに?」

「いや……お食事の時間なので支度をと」


 俺が部屋から出たのを察したのか、クリオラさんも恐るべきスピードで駆け付けてきた。この人たち、監視のために休む暇もないな。


「奥様。準備が整い次第、本宅から届けられますので、もうしばらくお待ちください」


 何回聞いたか、そのお役所台詞。


「手違いがあって忘れられているのかもしれません。今すぐ確認をお願いします」


 十中八九、故意にすっぽかされてるんだろうけどな。


「ですが」

「厨房にトラブルがあったとするならば、旦那様のお食事にも影響が出ているはず。どのくらい遅れるのかを知るためにも行ってきてもらえないでしょうか?」


 てめぇの主人は使用人の不手際を放置すんのか、お? ……的な揶揄を感じ取ったのか、クリオラさんはぐっと唇を噛み締め、


「……ただ今、確認してまいります」


と頭を下げると、大急ぎで離れを出て行った。



 さて、行かせたはいいが今すぐ食事にありつけるわけではないので、俺はキッチンへと足を向ける。普段使われない離れだが、保存食ぐらいは探せばあるだろ。


「せっかくだからワインも開けようか。オンヌ、持ってきてくれますか?」

「め、召し上がられるので?」


 チャーミンは十七だが王国の基準では成人済みだ。一応人妻だし初夜でも飲んでたしな……


 オンヌを地下室に行かせた後でキッチンの棚や引き出しを漁った結果、燻製肉にチーズに乾パン、瓶詰めのソース、それに調味料を見つけた。うーん、こんなもんか。


「奥様、それは……?」


 戦利品をテーブルに並べていると、オンヌがワインを手に戻ってきた。おー、ちょうどいいところに。


「酒盛りになってしまいますが、クリオラさんが戻ってこなかった場合、これで凌ごうと思いまして」

「……彼女は責任感が強いですから、必ず戻ってきますよ」


 ムスッとしてテーブルにワインを置くオンヌ。仏頂面では女子が近付きにくいぞー。


 そう言えばこいつの妹シュリーは、チャーミンが脅して王子の婚約者に一服盛る事になってたんだっけ。母親の病気に効く高価な薬と引き換えに。


「……あのさ」


 俺がオンヌに話しかけるのと、玄関の扉が開くのは同時だった。クリオラさんが帰ってきたようだ。俺は聞きかけた質問を飲み込むと、彼女を出迎えに行った。


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