第10話――二人分のメニュー

 クリオラさんは小鍋と大きなバスケットを抱えて帰ってきた。


「お帰りなさい。どうでしたか?」

「お待たせいたしました。すぐにご用意しますので、食堂でお待ちください」


 おい、質問に答えろや。まあ彼女は俺じゃなくてアメトリンの部下なんだけども。


 そして席に着いた俺の前に並べられた予想外のメニューに、思わず絶句する。

 大きな丸パンが二つにコーンスープ、皿に山盛りのスクランブルエッグ、そしてでかいソーセージが四本……どう見ても二人前はある。そりゃ前世ならこれくらいはペロリだけど、こちとら腐ってもか弱い(笑)お嬢様だぞ。そう言えば、あいつらの分は……?


 俺は席を立つと、隣のキッチンに押し入った。するとちょうど二人が今まさに、ささやかな晩飯を囲んでいるところだった。いや、本当にささやか過ぎる。カップに入ったコーンスープはこちらと同じだが、雑穀と野菜くずを牛乳で煮たらしいお粥? みたいなのがそれぞれ二口ほどって。


「お、奥様これは……」

「こちらが本当の、わたくしの夕食ですね」


 いや本当もう、晩飯が遅れた時から薄々分かってたよ。公爵家の使用人は皆、アメトリンの味方だ。監視のために引き取った罪人の嫁など、さっさと追い出したいに決まってる。が、みみっちい嫌がらせなど勝手な行動は主人の責任になるから、クリオラさんが先回りしてフォローした。決して俺を気遣ったわけじゃない。

 それにしたって、二人が我慢するのは何か違うでしょ。


 俺が踵を返すのを見て、ぎょっとしたクリオラさんは慌てて引き留めてきた。


「どちらへ行かれるのですか!」

「わたくしが世話になる大切な使用人にこのような仕打ちをするのは許せません。旦那様に抗議しに行きます」

「……っ! 旦那様はそのような指示は出しておりません! わたくしの独断で使用人用の食事と取り換えたのです。責任なら、わたくしが!」


 うん知ってる。クリオラさんは御主人様が大好きなんだねぇ。でも今後もこういった嫌がらせが出てくるなら根本から見直した方がいいよ。


「困りましたね、わたくしにそのような権限はないのですが……お二人が冷遇されていないのなら安心しました。ですがさすがに二人分は多過ぎますので……三人で分けませんか?」


 名案とばかりにポンと手を打てば、呆気に取られた二人が顔を見合わせていた。その間に俺はお盆に彼らの食事を載せ、さっさと食堂へ向かう。広くはないが、やっぱりぼっちで食うのはおいちゃん寂しいんだよ。


「お、奥様……いけません、使用人と同席など」

「その奥様ってのも堅苦しいからやめようか。どうせ旦那……公爵夫人だなんて認めてないんでしょ?」

「くっ! で、ではわたくしめも、『クリオラ』とお呼びください。使用人風情に敬称は不要です」


 何故か悔しそうにこちらを睨み付けるクリオラさ……クリオラ。オンヌもおろおろして見守っていたが、最終的に二人共「チャーミン様」と呼ぶようになった。そうして一杯のかけそばのように二人分の食事を三人で食べたのだった。あ、雑穀粥は死ぬほどまずかったから塩胡椒で食ったよ。


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