第11話――悪夢

『田貫知事! この度のソーラーパネル設置には近隣住民の強い反対があったそうですが』

『問題ありません』

『市議会でも議題に取り上げられ、請願書が何度も届けられたとの情報も』

『問題ありません』

『知事! 森林伐採による環境破壊および保水力低下、有害物質や電気代の大幅値上げなどが懸念されております。これらについての充分な説明や理解も得られぬままの強行はおかしいと、住民からの不満が高まっている現状について一言!』

『おかしくありません。不満の声など届いておりません。全く問題ありません』


 誰かの記者会見を、俺は上空からぼんやり見下ろしていた。カメラのフラッシュが凄くて見えないが、中心にいる中年女性らしき声は確か……俺の地元で知事やってる、田貫みどりだ。


「問題ありません問題ありません問題ありません問題ありません問題あはははははうふふふふげしゃしゃしゃしゃ……」


 壊れたテープレコーダーのように同じ言葉を繰り返し、終いには奇声を上げて狂ったように笑い出す彼女に、俺も記者たちもドン引きしている……と。


 ゴゴゴゴゴ……


『お、おい。何か聞こえないか?』

『あーっはははは、全ー然問題ありませ――ん!!』


 地鳴りが響き、会見場の窓が一斉に割れると同時に、土砂が流れ込んできた。知事も記者も、様子を見守っていた俺すらもそれに飲み込まれ――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「うわあぁっ!?」


 がばっと飛び起きた俺は、汗をびっしょりかいていた。寝間着が張り付いた体を見て、異世界の美少女に転生していた事を思い出す……最悪な夢だった。いや、現実よりはいくらかマシだったかもな。少なくとも俺が生きている間、マスコミが太陽光発電の問題点を報道した事なんてなかったから。


「お目覚めですか、チャーミン様」


 汗を拭っていると、クリオラがベッドに乗り上げた足を下ろしながら声をかけてきた。ん? なんで部屋にいんの? ……もしかして(朝だけど)夜這い?


「おはようのチューでもしに来てくれたとか?」

「……このまま目覚めなければ、首でも締めようかと」


 塩!! いや、さすがに今の冗談はおっさん臭かったけども。外見美少女だからギリギリ許してくれませんか、そうですか。

 何事もなかったように着替えを手伝いながら、クリオラはドアの向こうを見遣る。


「本宅から朝食を貰ってきましたので、また三人で分けましょう」


 そして例によって俺の分は無しかい。兵糧攻めは基本とは言え、言ってみれば俺は幽閉された捕虜みたいなもんだろ。虐待はんたーい。



 朝のメニューは丸パン、コーンスープ、茹で卵、ソーセージ、リンゴ、オレンジジュースだった。茹で卵とリンゴだけ一人分足りないあたり、セコさを感じる。


「これからはわたくしの分は自炊にした方が良さそうですね」

「自炊ですか? わたくし、料理の腕はあまり自信が……」


 ぽつりと呟いた一言に、クリオラが訝しげに答える。いや、君じゃなくて俺が作るんだが……包丁も握った事がないお嬢様だと思われてるなら仕方ないか。彼女の疑問に、オンヌが代わりに答えた。


「ドラゴン騎士団ではサバイバルでも生き残れるよう、訓練を受けているのです」

「チャーミン様もですか!? いくら騎士団長の御息女とは言え……」


 さすがに戦闘訓練はしないけど、料理くらい作れるわい。まあそれ以上に、薬の調合のが得意ですがね……


「そういうわけなので、今後は食材だけ貰ってきてくれませんか?」

「承知いたしました……この件は旦那様に報告させていただきます」


 アメトリンに言ったところで改善するとは思えんけどな。とりあえず餓死は困るから、食い物は何とか確保しておきたい。


「それではチャーミン様、本日のご予定はどうされますか」


 そう聞かれ、俺はパシンと手を打って提案した。


「今日はこの離れの大掃除を行います」


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君を愛せないと言われたが、中の人はおっさんです 白羽鳥 @shiraha

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