第2話――瞳の奥の守護者
コン、コン
俺の絶叫を聞いて、誰かが扉の向こうでノックする。慌てて声を飲み込めば、二人の男女が中に入ってきた。一人は銀髪ナイスバディーで気の強そうなメイドさん。もう一人は浅黒い傷だらけの肌に強面の、がっしりした迫力あるあんちゃんだ。
銀髪メイドは俺を見るなり一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに無表情に戻りスカートを端を摘まんでお辞儀した。
「お目覚めでしたか、奥様。先ほど凄まじい悲鳴を上げておられたので、勝手ながら入室させていただきました」
あ、うるさかったですか、すいませんね……なんて落ち着いて返せる余裕はない。
俺はパニックを起こしながら、鏡と自分を交互に指差した。
「女になってるんだけど!?」
「何をおっしゃっているのか、分かりかねます」
「いいから見てくれよ、ほらぁ!」
心底不思議そうな二人に、埒が明かないとばかりに俺はネグリジェの胸のリボンを解いて前を寛げてみせる。男にはあるはずのない柔らかな肉でできた谷間が露わになる。
「うわっ!!」
途端にあんちゃんが真っ赤になって顔を背けた。図体の割に反応ピュア過ぎん?
一方、銀髪メイドは即座に俺のネグリジェを整え直すと、若干きつめにリボンを結んだ。
「奥様、そのようなはしたない振る舞いは旦那様以外の殿方の前ではご自重くださいませ」
「ぐえっ! ……えーっと、旦那って誰?」
「はあ!?」
二人は目を剥いて俺を凝視するが、本気で分からないんだから仕方ない。
俺が、奥様!? 俺って結婚してんの? と言うか女なんだから、相手は当然男だよな……マジかよ、俺も男なんだけど。いや、でも今は女だから問題ないのか? ああ、こんがらがってきた。
「とりあえず、ここはどこ?」
「客室です。奥様が初夜に公爵夫妻の寝室で暴れたため、とりあえず看病に適した場所へと」
「いや、そういう意味じゃなくて。じゃあさ……俺って誰なの?」
正確には、俺が今使っている女の体の持ち主である『奥様』の事が知りたいんだけど。
メイドとあんちゃんは俺の質問に顔を見合わせると、何も言わずに部屋を飛び出して行ってしまった。
(何なんだ……)
いきなり様子の変わった二人に、どうしたもんかと頭を掻きながら困惑していると。
【目を閉じよ……】
「わっ、また!?」
さっき聞いた声が再び頭の中で響いた。目覚めよとか言ってたのに今度は閉じろとか、どっちなんだよ!?
【目を閉じよ……】
「分かった、分かったって!」
無視したところで、応じるまでしつこく繰り返される事が予想できた俺は、大人しく応じる事にする。瞼を下ろすと視界は真っ暗になり――
「ヒエッ!」
思わず、喉の奥から悲鳴が上がる。
暗闇の中、巨大な二つの目玉がぎょろりとこちらを見つめていた。怖いなんてもんじゃない……黄金の瞳で射抜かれ、本能で「喰われる」と戦慄する。まさに蛇に睨まれた蛙状態だった。
「あわわわわ……」
【我が名は『グリンド』。王国の守護神であり、そなたに加護を与える者なり】
そんな俺の恐怖に構わず、淡々と自己紹介してくる目玉……いや、神様? 何者なのか分かったところで納得している場合でもないのだが。何せ目玉だけで人の背丈ほどあるのだ。
だがどうやら取って食われるわけじゃない事だけは理解した俺は、腰が引けながらも気になっていた点を次々に質問する。この世界の事、今の自分の事、死んだはずの俺が何故かどこぞの男の『奥様』として生きている事――
それら全てを、グリンドは一言で片付けた。
【答えは既にそなたが持ち合わせている。今は記憶が混ざり合い混乱しているが、直に思い出すだろう】
「何だよ、それ? ……うわぁっ!!」
パアッと辺りが強く輝き、目を瞑っていても差し込んでくる光の中に飲み込まれていく。同時に脳内に凄まじい量の情報が流れ込んできた。
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